幕間 『全て』が集結する、少し前
78.グランスレイフのとある場所
「別の身体と付け替えられたのかってくらいに体が重くなるな、そのスキル……あのダークエルフと戦っていた時は必死で気にしてなかったが、これは酷い」
「だろ。俺を追い出して正解だったな」
「……本当に申し訳ない。いくら謝っても、謝り足りないのは分かっているんだ」
「いやすまん、冗談で言っただけだから気にしないでくれ」
俺のスキル『味方弱化』を受けて、その効果に驚く工藤茂春に、冗談半分に笑いながら言い返したら深刻な顔で謝られてしまい、気まずくなってしまった。
ダークエルフとの戦いの時も一緒に戦っていて、スキルの効果を受けていたはずではあるが、そんな事を気にする余裕すらも無かったので、改めてそのスキルの効果を再確認していた。
そもそも、暗い夜に、中にいれば絶対安全なマーデンディアの外で、一体何をしているのかというと……。
「……そもそも、何でお前もついて来たんだ? この程度の魔物なら、一人でも倒せるだろ。わざわざ俺の『味方弱化』まで受けて、一緒にレベル上げをするメリットなんてあるのか?」
元々、ヒューディアルへの出発までの期間。暇だったので、とある日の夜に一人で魔王城を抜け出して、レベル上げに出かける予定だったのだが……それを見ていた工藤が、何故かついてきた。
「十分すぎるくらいに強いのに、さらに上を目指すお前を見て、俺も負けてられねえって思ったからな」
……それだけなら、わざわざ一緒にレベル上げに行く意味はないんじゃないのか。むしろ彼の方が空を速く飛べるし、一人の方が効率良くないか? と色々ツッコミどころが多いが、心の中にしまっておく。
「俺には、守らなくちゃいけない人がいるからな。……妹を守る為には、もっと強くならなくちゃいけない。元の世界へ、無事に一緒に帰る為に」
「……俺とお前の違いってのは……
吐き出すように言う彼に、俺は――
「その目的を探しに、ヒューディアルに帰るんだろ。守りたい物を作る為に。この世界に来る前のような、あの時に戻る為に。クラスを一つにするって言ったじゃないか。目的としてこれ以上に、何があるって言うんだ」
「そうか。……変な事を聞いた。俺とお前の違いって、
そんな会話を交わしながら、俺たちは夜の暗闇の中で魔物を倒し続ける。互いの目的は違えど、強くなりたいという気持ちは同じだ。
「追いつくとか、追いつけないとか。そもそも、俺たちは競っている訳じゃないだろ。そんな物、どうでも良いと思うけど」
俺は、人と競ったり……といった事はあまり好きではない。強くなる事にしても、誰かよりも強くなりたいとか、そんな事はどうでもよかった。
とにかく、自身の目的の為に、目的に合った事だけをする。それが、俺の考え方だ。
「そうか。俺は……どうしても『アイツよりは強くなりたい』とか『コイツよりも上手くなりたい』とか、そんな考えしか出来ないからよ。今だって、完膚なきまでに負けたお前に対して、『超えたい』だとか考えてしまう」
……別に、その考え方を否定している訳ではない。それが自身のモチベーションになるのなら。目標になり得るのなら、それが良いとは思うし、超える目標であると、そう思われるのも悪くはないと思う。
「それも良いんじゃないのか? それが目的になるならさ。ただ、俺はそういった事が好きじゃないってだけだ」
魔物を剣で一振り、倒しながら言う。工藤も、負けじともう一体の魔物に剣を突き刺しながら。
「そうか。……ありがとな、またこうして話を聞いてくれて。少し楽になった」
なるほど。だからわざわざ、効率の悪いレベル上げについてきた訳か。……話を聞くくらい、わざわざこんな所にまでついて来なくても、俺で良ければ聞くのにな……と、心の中で呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます