73.それぞれの戦い

 他のみんなと分かれ、一人でひたすらに剣を振り、ゴーレムを倒し続ける。やはり、ヒューディアルの魔物とは訳が違う。


 一人一人分散して戦うのは、俺のスキルとは相性が良かった。俺と一緒に戦うだけで、周りのみんなまで能力が下がってしまうのだから。


 ――ガキンッ!!


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 ガラガラガシャンッ! と崩れ落ちるゴーレム。一体一体が硬くて、倒すのが大変だ。十、二十、三十と倒し続けてはいるが……それが二万もいるというのだから、気が遠くなってくる。


 ただし、ゴーレムと戦っているのは俺一人ではない。



 ***



 マーデンディアの戦力である魔人たちは、攻め入るゴーレムを抑えるべく、こちらも数で応戦する。硬いゴーレムの体も、数人で協力して、一体ずつ倒していく。……しかし、


「流石に硬いな……。このままじゃ埒があかない」


 そうぼやいた魔人の一人に応えるように、近くのもう一人の魔人が言う。


「――そうでもないみたいだぜ。確かにプレシャ様は力を失っているが助っ人は同等の……いや、それ以上の戦力があるらしい」


 その魔人の視線の先には――



 ***



「――『サンダー・ブラスト』ッ!!」


 唸る轟音と共に、数百ものゴーレムが吹き飛ばされていく。乱発は出来ないが、一撃で多くのゴーレムを破壊できる強力な魔法を放ち、一気にゴーレムの数を減らしていく。


 単純な破壊力なら最強クラスの、そんな唯葉の魔法でも、ゴーレムの群れは止まる気配がない。


「……さすがに多すぎるなあ。でも、頑張ってるのは私だけじゃないから」


 そう。唯葉一人で戦っている訳じゃない。そこから少し離れたところでは――



 ***



「確かに硬ッてえが……俺の敵じゃねえな」


 ――ガキンッ、ガキンッ、ガキイイイィィィンッ!!


 ゴーレムを砕く音が響くと同時、高速で空を舞う一人の男がいた。羽根もなく空を飛ぶ彼は、Sランクスキル『超速飛行』の使い手で、さらに魔人としての身体能力なんかも併せ持っている。


 その二つの力は相性抜群で、目にも止まらぬ速さで戦場を飛び、次々とゴーレムを砕き、葬っていく。



 ***



 それぞれが全力を尽くし、迫り来るゴーレムを倒し続ける中……。一人の女性、そして魔王であるプレシャ・マーデンクロイツは――


 ゴーレムの群れをかぎ分けて、走り続けていた。


「この状態の我では戦力としては役立たない。……ならば、我に出来ることをするとしよう。絶対にこの群れの主導者を見つけてやる」


 戦力としては役立たないとしても、出来ることは残っている。元の自分が強かったからといって、今の状態で無闇に突っ込んでいくような、そんな性格ではない。自身の状態をしっかりと理解し、引くときには引く。それが出来てこそ『魔王』なのだから。


 親玉さえ見つけて倒す事さえできれば、この二万ものゴーレムたちから知性が消え、ひとまずマーデンディアにゴーレムが向かうことは阻止できる。


「考えられるとすれば群れに紛れて隠れているか、少し離れている所に隠れて操っているか。これだけ群れの中を走っても見つからないとすれば……後者だろうな」


 ゴーレムを倒す事ではなく、親玉を探す事に注力して走り回っていたが、それでも見つけられない。


 プレシャは、一度群れの中の混戦から離脱すると、見晴らしの良い丘の上へと走る。


「どこか、隠れられそうな所は――」


 ふと目に入ったのは、ゴーレムの群れから北東の森。


 ゴーレムの群れを操れてかつ、身を隠すことができる場所とすればあそこくらいか。と、彼女は目星をつけるとすぐさま、森へと向けて最短距離で走り出す。

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