72.ゴーレムの群れ

 緊急事態のアナウンスから三十分もせずに、ゴーレムの群れとの戦いの準備を終えた俺たちは、都市マーデンディアの北門へとプレシャの運転する車で向かっていた。


 その車には俺たち兄妹、そして――魔人へと人体を改造した男、工藤茂春の姿もあった。


「……まさか、お前まで来るなんてな」


「行き場のない、俺の身に宿るこの力の使い道が来たかと思って。もちろんタダじゃない。ヒューディアルへと向かう船に乗せてくれるという約束で、俺もこの防衛戦に参加する事になった」


 彼は人間の大陸、ヒューディアルに戻って、あのクラス――二年四組をもう一度一つにしようと、そう心に決めているらしい。


 昨日のあの戦いを通して、俺が伝えたかった事を伝えられたようで、良かったと思いながらも、少し照れくさい。……後々思い出したら、だいぶクサい台詞を吐いてしまったし。


 しかし、彼の強さは本物だ。俺は動きを読む事で何とか彼の動きに食らい付いていたが、それが何度も戦闘の経験を積んで、動きが読めないほどになってしまえば……俺では歯が立たないだろう。そんな彼も戦ってくれるというのなら、心強い。


 そもそも、他の魔人たちも充分強いので……正直、俺たちがいなくても何とかなりそうだ。



 ***



「街を抜ければ魔物の巣窟だ。……お前らの敵では無いだろうが、気をつけてくれ」


 そう運転しながら言うプレシャ。彼女の言う通り、門を抜けると――その先には、さっきまでの都会の光景が嘘だったかのような、全くの別世界が広がっていた。


 見渡す限りの草地を走る車の群れ。道も整備されておらず、こんな所を車が走っているのが違和感にしか感じない。


「魔人の都市はマーデンディアだけだ。あの都市は我の結界で護られてはいるが、結界の外はご覧の有様だ。我がヒューディアルに掛けた呪いで生み出される魔物とは訳が違う。気をつけろ」


 そういえば、いつだかに聞いたヒューディアルに掛けられた呪い……というのも、プレシャの物だったのか。それでも、あれは手加減に手加減を重ねた呪いなのだろう。戦争の時の彼女は、ほんの一瞬にして数千もの魔物をあの大地に降らせたのだから。


 そして、ヒューディアルの魔物とは違うというのは言われなくても分かる。まず様々な種類の魔物がいるが、総じて大きさも違うし、放っているオーラだって違う。見るからに、あの大陸の魔物とは格が違うのは戦わなくてもわかる。


 しかし、わざわざ相手にしている時間もないので、俺たちを乗せた車も、その周りの車も、構わず先へと走らせる。


 そして、長い上り坂を車が上がり切って見えたのは――ゆっくりと、着実にこちらへと迫ってくる、ここから見ればまるで砂漠のような光景だった。しかしあれは……。


「あれがゴーレムの群れらしいな」


 プレシャは、車に付いている黒い石に手を触れると、


「総員、降りて突撃だッ! 数では劣るが所詮は魔物。全部ぶち壊してやれ。そして我らを脅かす脅威を炙り出して血に染めてやろうぞッ!」


 あれは確か共鳴石とかいう物だったっけ。あの石を通した声は、他の魔人たちに繋がっているんだろう。強く叫ぶプレシャ。力は一時的に失っているにしても、その声や姿には、魔王としての威厳が強く残っていた。


「さて、我らも行くぞ。お前らは一人で戦えるだろう。――これを持っておけ」


 プレシャは、後部座席に座る俺たち兄妹、そして助手席に座る工藤茂春に、それぞれ小さな石を渡す。


「共鳴石だ。最初は全員、バラバラに分かれて戦う。そっちの方が早くアイツらを片付けられるだろう。ある程度片付けて、あのゴーレムの群れを操る魔人を見つけ次第、この共鳴石で場所を知らせる事。全員で叩きに行く」


 こうして、二万ものゴーレムの群れとの戦いが幕を上げる。

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