第三章 第三節 主人公だと思ってた
46.この異世界で強くなる
突然、訳の分からない異世界へと飛ばされて。
そして、手に入れたのは『超速飛行』。最高ランクである『Sランク』のスキル。ただそれだけでもてはやされて、調子に乗って。
いつしか俺は、自分がこの異世界で起こる物語の『主人公』であると、勝手に思い込んでいたらしい。
しかし、たった今気づかされた。俺はSランクという力に酔っていただけで、自分は主人公でも何でもないという事を。
俺は、歩き去って行く二人の姿を、壁に叩きつけられて、銃弾で風穴を開けられたボロボロの姿で眺め、噛み締める。
――一人はレベル1で、俺の敵でもないと思っていた相手。
――そしてもう一人は、最低ランクのハズレスキルを掴まされ、早々に追い出されたはずの相手。
……『主人公』は他でもない、あの二人だったのかもしれない。そう思いながら、俺はギルドの廊下に一人、今はもう壊され、ただの飾りと化してしまった、魔剣レイフィロアと呼ばれる黒い剣を手から落とし、その場で倒れる――。
***
――気がつくと、自分の部屋のベッドで寝ていた。銃弾をぶち込まれた場所には包帯が巻かれていて、痛みはさっきよりも和らいでいた。
「……あのシスターの治癒魔法か。チッ、ここまでやられても、まだ俺を使い潰そうとしやがって」
そのまま死んでしまったほうが、まだ華々しい終わり方だったと思う。しかし、どうやら無様にも生き残ってしまったらしい。
俺は、Fランクの烙印を押された、主人公という存在とは正反対であったはずの男の言葉を思い出す。
『主人公なんてバカバカしい概念は存在しない』……か。
「そうだな、本当にバカバカしいよ。そんなモノに縛られ、酔っていた自分がよ」
俺は、痛む体を無理やり起き上がらせて、立ち上がる。
「『主人公』なんて下らないモノ、もうどうでも良い。俺は……主人公という概念すらも壊せるような、そんな、ただ強い力を手に入れるッ」
俺は、左拳をぎゅっと強く握りしめ、右手には手折られた魔剣、レイフィロアを手にする。
そして、右手の魔剣を、部屋の窓に向けて一振り――ガシャガシャガシャンッ!! という耳障りな割れる音を切り裂いていくかのように、俺は割られた窓からサッと夜の街並みへと飛び降りる。
「――『超速飛行』ッ!!」
俺は一言、そう叫ぶと……ゴウッ!! という音を轟かせながら、俺はこの大きな街、クリディアの上空へと浮かび上がり、その街並みを一瞬にして通り過ぎていく。
やがて広い草原へと出ると地上へと近づき、右手に握る、折れてしまった魔剣レイフィロアをヤケクソ気味に振るう。
――ボゴッ!!
切る、というよりは殴るに近いだろうか。そんな攻撃を放つと、その相手には目もくれず、次へ、次へと魔物の元へと飛び込んでいくと、また一振り。
目にも止まらぬ速さで、夜の凶暴な魔物を殴り飛ばしていく。
ただ、己の力のままに、ただひたすらに。見えた魔物を全てを葬り続ける。
「……俺は強くなる。主人公がどうとか、そんなことさえもどうでも良くなってしまうくらいに」
そう呟きながら、俺は再び上空から、緑色の人型の魔物の元へと向かい、剣を振るう。
――ガチンッ!!
振った剣の一撃は……突然、何か硬いものに受け止められてしまう。
剣の先には――紫色の魔法陣と、それを展開する、緑色の肌を持つ人の姿があった。
魔物かと思ったが、これを魔物と表現するのには違和感がある。他の魔物と違って……まるで、俺たちのような人間のようだったからだ。
その身体は、普通の女性そのもので、肌が緑色な事を除けば、ただの人間と変わりない。
そして、俺の一撃を受け止めた彼女は――
「いきなり、何なのかしら」
――言葉を発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます