47.二度も圧倒されて

「魔物が……喋っただと?」


「魔物とは失礼ね。アタシは魔物じゃなくて『魔人』だし、さらに言えばその中でも上位種族、『竜人』なんだけどぉ?」


「『魔人』……だって?」


 俺の言葉を理解し、言葉を返す彼女が放った一言……『魔人』。


 俺がここに召喚される前に起こった戦争で、人類に猛威を振るったという元凶が、なぜここに?


 そんな彼女は、俺の剣を振り払うと、冷静に言い放つ。


「あら、てっきりアタシの正体を知って攻撃してきたのかと思ったけれど、違うのねぇ? なら一体、どうして人間がこんな所に、それも一人でいるのかしら」


 そんな彼女の問いに、俺は一言。


「……強くなる為だ」


「……?」


 その言葉の意味が理解出来なかったらしい魔人、竜人と自らを呼んだその女性に、俺は付け加えるように。


「魔人だか竜人だか知らねえけど、俺のレベル上げの邪魔をするなら問答無用で俺の経験値だと言ってんだよ」


 俺の言葉を聞いた、目の前の竜人は……不敵な笑みを浮かべて、


「ふふっ、あははははははッ! なに、アタシを経験値にするって? 出来るものならやってみなさい。竜人のアタシと、人間のアナタじゃ、そもそもの次元が違うとその身体に叩き込んであげるッ」


「そうかよ。それじゃ、遠慮なく経験値にさせてもらうぜ?」


 そう言うと、俺は再び飛び上がり、高速で竜人の元へと突撃する。速度を乗せた渾身の一撃を、相手は……ガキィンッ!! 軽々と受け止めてしまう。


「……マジかよッ」


 確かに剣としての力はこのレイフィロアには残されていない。それにしても、この攻撃を受け止めるなんて、只ものじゃない。


「その程度? 偉そうな事言っておいて、それで終わりとは言わせないわよぉ? あははははははッ」


 吹き飛ばされ、隙を見せてしまい――攻守が逆転し、攻めに転じてきた相手の竜人は、俺と同等か、それ以上の速さでこちらに飛び込んで来る。俺はなんとか宙を舞い、相手の頭突きを避ける。……が、それを避けたのも束の間。さらに一撃、拳が飛んでくる。


「くそッ、いくら何でも速すぎんだろッ!」


 そのパンチを避けることも出来ずにそのまま直撃を喰らい、ドスンッ! と鈍い音を立てて、地面へと叩きつけられる。


 しかし、それでも俺はこの身体に残る力を振り絞り、再び起き上がり、飛び上がる。そして、何度もレイフィロアの残骸で相手を殴ろうとするが……その剣は、何度やっても届くことはない。


 相手の手から現れる魔法陣が、絶対の壁となって俺に向けて立ちはだかる。そんな絶対の守りを操る相手の竜人は、一度後ろに下がると、口を開いた。


「ふふ、人間にしては中々やるじゃない。まあ、アタシの『本気』を引き出せない時点で、その程度って所だけど」


「……そんなに強くて、まだ本気じゃないってのか」


 俺は、強く歯噛みする。あの城の中で、狭い世界だけを見てきた俺は、自分がこの世界の中でも飛び抜けて強いと、そう思っていたのに。


 あの二人との戦いから続けて、自分が『弱者』であるという現実を二度も叩きつけられる。それが悔しくて、仕方がなかった。


「アタシ、ずっと気になってたんだけどさ」


 対面する竜人が、力を失い崩れ落ちる俺に向けて問いかけてくる。


「アンタはどうして、そこまで強さを求めるのかしら? 強さってのは過程であって、目標じゃない。一体何が、アンタをそこまで突き動かしているのか、気になるんだけど」


 俺を突き動かしてる物、か。……それなら一つ。

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