40.緋炎解放のイルエレ
後ろの方で放たれていた熱気が消えた事に気がついた俺だったが、それを見ている余裕は残されていなかった。
俺はその間も、赤く燃え上がる炎を纏ったイルエレに向けて、剣で攻撃を続ける。が、そのどれもが、彼女を守る魔法陣のバリアで防がれてしまう。
『マジック・コンバータ』による強化を《守》から《敏捷》に振り直した俺だったが、それでも攻撃は届かない。
相手と速度は互角なのだろう。防がれるばかりで、反撃はやってこない。どちらの体力が先に尽きるのか。そんな勝負へと変わっていた。
どちらも譲らないその戦いで、先に動いたのは――イルエレ。
剣での攻撃を受け止めず、一度後ろへと下がる。その隙を、俺は突こうとするが――
「――『緋炎・エルブルーム』」
イルエレの、初めての反撃を前に、俺は一度後ろへと下がる。
そして、イルエレの前に現れた無数の火球が、俺に向けて――ドバババババババッ!! マシンガンのように、しかしそれよりもさらに大きな弾幕が、こちらに襲いかかる。
火球と火球の間を潜り抜け、なんとか弾幕を抜け出したその先には――
「――『緋炎・ヒートレイ』」
待ち構えていたのは、高速でこちらを撃ち抜く熱線だった。俺は咄嗟に横へと飛び込んで、ギリギリの所で回避するが……追撃は止まらない。
床にバランスを崩して落ちる俺に向けて、再び――
「――『ヒートレイ・セカンド』」
放たれた二つ目の熱線を、俺は避ける事が出来ずに――直撃してしまう。
「お兄ちゃん――ッ!!」
唯葉の、悲痛の叫びが部屋に響き渡る。
そして、熱線が通り過ぎたそこは黒焦げになり……焼け焦げたその場所には、
俺は――熱線による煙に隠れ、痛む身体を何とか動かして、イルエレの懐に潜り込んでいた。
あの攻撃を直接喰らい、無惨にも傷だらけになってしまったが、それでも、まだ
「終わりだ、竜人・イルエレ」
「あれを直に喰らって死なないなんて、一体――ッ!?」
驚く竜人、イルエレだったが……答えは簡単。飛び込みながら、マジック・コンバータの強化を守に振り直しただけだ。
しかし、守に極振りした防御力をもってしても、それでもダメージは大きすぎた。
辛うじて動くことはできるが、もうさっきのような激しい攻撃を避け続ける事は出来なさそうだ。
――だから、この一撃で決める。
「――『マジック・コンバータ』……《力》ッ!!」
俺はそう叫びながら――剣を一振り。
力に極振りした一撃は、竜人・イルエレを斬り飛ばす。
そして壁へと叩きつけられたイルエレの、燃えるような赤い体は、少しずつ緑色に戻っていく。
「あ、アタシの緋炎解放が破られた……ッ!? あ、あり得ない……ッ」
俺は、倒れるイルエレの元へと歩いていくと――剣で一突き、トドメを刺す。
完全に息を引き取ったその竜人は、そのまま消えていき――シュウッ、と丸いオーブへと変わっていく。
言葉を話す、限りなく人間に近い魔人や竜人も、ほかの魔物のように消えていく。
だとすれば、この世界では――人間も、同じように死んでしまうのだろうか? いや、人間が食べている動植物は……。そんな、嫌な想像をしてしまう。
「……お兄ちゃん! 大丈夫?」
「大丈夫。唯葉こそ、あんなバケモノを任せちゃって、すまない……」
いくら強いと言っても、俺の妹だ。あんなのと戦わせるなんて、本当はさせたくなかった。もっと俺が強ければ。一人で同時に相手できるほどの強さがあれば、なんて思ってしまう。
***
俺は、剣を一振り。次元の扉と呼ばれていた、ここと魔族の大陸を繋ぐらしいドアを砕く。
「……これで一件落着か」
「それじゃ、帰ろう? 私も少し休んだから、少しくらいなら魔法も使えるし」
「そうだな。唯葉、すまない」
唯葉は「お安い御用だよ」、と言いながら、俺の手を握る。そして、
「――『テレポート』ッ!」
唯葉の詠唱と共に、周りの景色はザーッ! と昔のテレビの砂嵐みたいに流れ――
……気づくと、そこは俺たちが寝泊まりしている、宿の部屋だった。
無属性の中級魔法『テレポート』。強くイメージ出来る、さらに言えば……覚えている場所に一瞬で移動できる魔法。
一度の距離に限界はあるようだが、クリディアから南のダンジョンくらいなら余裕だ。ただ、その風景を鮮明に思い出せる場所じゃないと飛べないので、そこまで利便性は高くない。
ひとまず、この大陸に潜む竜人を倒し、無事に帰ってこられた俺たちは……まるで昨日までのように、再びベッドに転がりこんだ。
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