第三章・第二節 ようやく立ったスタートライン

41.採取依頼

 元『二年四組』――私たち十一人は、あのドルニア王国の元から逃げだした。何もない、ゼロからのスタートだった。


 そう、異世界に来たあの日に、梅屋君あのひとが立ったスタートラインに、私たちは今、初めて立ったのだった。



 

 一応、お金はあの後、金髪シスターから財布を抜き取っておいたので心許ないが無くはない。


 泥棒なんてして良いのか? と思ったが、私はともかく、他のみんなはタダ働きさせられていたので、当然の権利だ……と正当化して。これから生きていく為には仕方ないと、自分を押し殺して、財布を抜き取ったのだった。


 でも、どのみちお金は自力で稼がなくてはならない。このパーティは十一人もいるのだから、食費と宿代だけでも、一週間もしないうちに今のお金は尽きてしまう。


 という事で、冒険者ギルドで登録を早々に済ませた私たちは早速、依頼を受ける事にした。


「魔物を倒したり、なんて依頼はないのね。……最初だし、簡単な物が良いとは思っていたから良いんだけど……」


 ギルドの掲示板には、大量の採取依頼がズラッと並んでいる。


 薬の材料だったり、武器に使われる鉱石だったり、動物の皮素材だったり。


 その過程で魔物と戦うことにはなりそうだが、魔物が直接的なターゲットの依頼はほぼ無かったのだ。


 採取依頼は、わざわざ受注する必要もなく、その素材を勝手に持ってきて、買い取ってもらうという形式なので、早速、私たちはクリディアの街を出て、お金を稼ぐために素材を集める事にした。



 ***



「水橋さん。大体どこに行くのかは決めてるの? まあ、水橋さんならもう大体決めてそうだけど……」


 この世界に来てからも、ずっと私に味方してくれた赤髪の女子、神崎あかねが言う。彼女と私。基本はこの二人で、このパーティを引っ張っている。


「ええ、もちろんよ。みんな、この地図を見て。この丸を付けた辺りが薬草の群生地らしいの。少し遠いけれど、


「……?」


 私の放った言葉に、パーティのうちの一人の男子が、引っかかりを覚える。


 そりゃそうだ。こんな異世界に、現代技術の結晶である車なんてあるはずがないのだから当然だ。


 そんな声に応えるように、私は――


「――『物質錬成』」


 私が唱えると、目の前には――突如として、大きなバスが一台、ドーンッ! と現れた。


「そういえば、水橋さんのスキルって私も見たことなかったんだけど、こんな事が出来ちゃうの? ……凄いなあ」


 この『物質錬成』をみんなに見せたのは初めてだった。唯一見せたのは、あの時。梅屋君と共に戦った時だったっけ。


「みんな、乗って。私の物質錬成は三十分したら消えてしまうから、少し飛ばすわ。……気をつけて」


 私は運転席に座り、他のみんなはその後ろへと乗る。十一人全員が乗った事を確認すると、私はバスを発進させる。


 ……本来なら、このスキルだけじゃ、こんな事は出来なかったはず。


 バスだって、見た目さえ繕えば動くような物ではないし、あの時使った拳銃だってそうだ。中身がしっかりしていなければ使えない。


 ただ、私は乗り物や銃器といった物に興味があり、仕組みや構造を知っていたからこそ出来た事だった。


 もし、私以外の人がこのスキルを持っていれば、もっと使いこなせるかもしれないし、逆に使いこなせないのかもしれない。


 ただ、私は私に出来ることをしよう。このスキルを持ってしまったからには……。と、そう思う。

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