35.ひと段落
「それじゃ、行きましょうか」
ドルニア王国側へ残る側と、王国側から離れて、私の元へと付く側。元々一つだったはずのクラスは、本当に二つへと分裂してしまった。
「……これって、全て水橋さんが……?」
私について来てくれる、計十一人のうちの一人で、この世界に来てからも私の事をずっと気にかけてくれていた、赤髪の女子……神崎あかねが私に聞く。
「……いいえ、助けようって言ってくれたのは。このどうしようもなかった状況でも戦ってくれたのは梅屋君よ」
「梅屋君? ……この世界に来たばかりの時に――」
「そうよ。でもね、彼は……ただ自暴自棄になってた訳じゃなかったの。私たちなんかよりも、ずっと先を歩いていた」
私たちなんかよりも、遥かに強く、この世界の先を歩いていた。
ドルニア王国に飼われながら、安全な場所でこの二週間を過ごして来た私たちなんかよりも、ずっと先へ。
「……梅屋くんは、どこにいるの?」
「ちゃんとお礼を言う前に、いなくなってしまったわ。お礼くらい、させて欲しかったのにね」
そう言いながら、私たちは冒険者ギルドの階段を降りていく。
お金もなければ、何もない。全くの一からのスタートだ。……私たちは、ようやく彼と同じスタートラインに立ったのだ。
何もかもゼロで、そのまま捨てられた――梅屋正紀と同じスタートラインに、二週間遅れで。
***
「どうだった? 唯葉」
「みんなと久々に会えて、ほんとによかったよ。まさか、また会えるだなんて思ってなかったから……」
俺のほうは、そうは感じないほどに色々な出来事があったが、二週間ぶりだ。しかし、唯葉は二ヶ月以上前にこの異世界に来て、捨てられてから――会いたくとも、会えてなかったんだ。俺なんかとは比べ物にならないだろう。
「魔族との戦争……か」
ふと、俺は呟いた。唯葉を人間に戻すための手がかりであり、倒すべき敵でもあり……今までのように勝てる保証のない相手だ。
そんな相手を前にして、俺は不安になってしまう。そんな俺に、唯葉は――
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私とお兄ちゃんなら絶対に生きて帰れるから」
……そうだな。今から不安になっていてもしょうがない。
「明日からも魔族との戦いに備えてレベル上げ……だな」
「えー、私ちょっと休みたいなぁー。ずっとレベル上げだったし……」
そういえばこの街に来てからはレベル上げばっかりだったっけ。
「そうだな。明日くらいはのんびりするか」
会議も、その後のひと騒動もなんとか終わり――俺たち兄妹は、束の間の休息をとることにした。
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