第三章・第一節 兄妹二人のダンジョン攻略

36.活発化したダンジョン

 あの会議から数日経ち……。俺たち兄妹は、そろそろ休息という名のダラけきった生活を正すべく、冒険者ギルドへとやって来ていた。


 ウィッツさんの厚意によって既にギルドに話が通っているらしく、冒険者としての登録はいつの間にか終わっていた。


 特にお金に困っている訳では無いが……体を動かすのに丁度いい依頼でも受けようというのが大きい。


「……なんか、採取依頼ばっかりだな」


 ギルドの掲示板には、魔物の討伐とか、そういった依頼はほとんどなく、鉱石や薬草とか、素材の採取依頼ばかりが並んでいた。


「今は人類の存続が掛かった戦争の前ですからね。薬や武具の生産のために、大量の素材が必要なんです」


 横から、冒険者ギルドの職員の女性が、そう話す。


 ……戦争、か。実感はまだまだ無いけれど、最近、街がどんどんと慌ただしくなっていく気がする。


 ギルドの中も慌ただしいような気がするし、街の中も色々な国の兵士や武装した冒険者の姿がこの街に来たばかりの時よりも明らかに増えている。


 本格的な作戦会議は、数日後から始まるので、俺たちはまだまだそんな雰囲気では無かったが、そろそろ本当に戦争が始まるんだな……。



 そんな事を考えていると、別の掲示板を見ていた唯葉がこちらに駆け寄って来て、


「お兄ちゃん、見てよこれ。最近、近くのダンジョンの動きが活発になったって」


 唯葉に言われ、その張り紙を見ると……。


『クリディア南のダンジョンにて、急激に魔物の動きが活発になっているとの情報。既に数名、死者が出ている為、該当地域周辺には絶対に近づかないこと』


「最近……か」


「やっぱりお兄ちゃんもそう思う? 私も、このダンジョンには何かあると思う。……私が捕まった、あの洞窟みたいに」


 唯葉が、村の人たちが連れ去られたダンジョンも、出来たと言っていた。魔族との情勢を考えて、今の状況と照らし合わせてみれば……偶然ではなさそうだ。


「唯葉、どうする? 相手がもし魔人だとしたら、いくら俺たちでも危ないぞ」


「大丈夫だよ、私は新しい魔法を覚えたし。お兄ちゃんだって、一つだけ魔法を覚えたんでしょ?」


「……あれは魔法って言って良いんだろうかな……」


 数日間、たしかにだらだらとした生活をしていたが一応、なにもしていない訳ではなかった。


 唯葉はすっかり趣味になってしまった読書に明け暮れていたし、俺も唯葉があまりに楽しそうに読んでいるので、気になって少し読んでみたら、たった一つだけ。何とか理解できそうな魔法があったのだ。


 それは、唯葉がよく分からずに読み飛ばしていた箇所らしく……魔法を覚えたというのに、ますます訳がわからない。


「危険を感じたらすぐに逃げよう。こんな所で死んでいられないしな……」



 ***



「お兄ちゃん、あれじゃない? なんか強そうな魔物がいっぱいいるし……」


 クリディアを出て、南へずっと歩いていくと……目の前にそびえる山に一つ、洞窟の入り口らしきものがあった。


 そして、その洞窟の前には、小さな赤いドラゴンが三匹。


 たとえ昼間だとしても、ダンジョンの周りには強力な魔物がうろついているらしい。


「行こう。唯葉は俺の後ろから魔法を頼む」


「はーい」


 俺たちは、その高い敏捷のステータスで、一気に小さなドラゴンの元へと走る。


 そして、唯葉は魔法の射程範囲、およそ三十メートルほどまで近づくと、


「――『サンダー・ショット』っ!」


 唯葉が叫び、ドラゴンのうちの一匹に手をかざすと――ギュイインッ!


 一本の雷撃が、一匹の体を貫く。そのままドラゴンは気を失い、パタリと倒れる。


 一方の俺は、ドラゴンの群れへと近づき、剣で一振り。――スパッ!!


 ドラゴンの体を真っ二つに切り落とし、そのままの勢いでもう一匹の元へ。――スパァンッ!!


 二匹のドラゴンを切り落とし、息の根を止める。



「お兄ちゃん、さすがっ!」

「唯葉も凄かったぞっ。……というか、あれで初級魔法なのか」


 初級魔法『サンダー・シュート』。しかし、唯葉の高い魔力のステータスと合わさってなのか、充分に実戦で使えるほどの威力まで跳ね上がっている。


「この分だと、中に入っても大丈夫そうじゃない?」


 唯葉の言う通り、このドラゴンクラスの魔物ばかりであれば……中に入って探索してみても問題はなさそうだ。問題は、そのダンジョンの奥で何が待っているのか、ではあるが。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る