34.因縁の対決

「アイツはこの部屋にいるはず。金縛りみたいな魔法を持っているみたい。他にも隠し持ってるかもしれない」


「分かった。気をつけよう」


 そう言うと、俺はそのドアをバンッ! と一気に開け放つ。


 その先の部屋には……金髪のシスターが椅子に座り、呑気に本を読んでいた。あの特徴的な表紙から、おそらく魔導書だろうか。


 こちらに気づいた彼女は、チラリと俺たちの方を見ると、テーブルに本を置き顔を歪ませながら――


「チッ、何の用だオマエら。勝手に入ってきやがって、ブチ殺されたいのかあ?」


 ……そこには、最初の城での、大人しかった金髪シスターの姿はどこにも無く、本性を現した彼女が、こちらに強気で言い放つ。


 それに負けじと、明日香も冷たい声で言う。


「昨日も言った事だけど、もう一度。――私の望みは一つ。希望者の解放、それだけ」


「――別にいいわ? 会議に負けた以上、もう無駄に戦力を持っててもしょうがないし、用済みよ。連れて行くなら勝手に連れていきなさい」


 金髪シスターから飛び出した答えは――思わず聞き間違いかと思ってしまうような、そんな答えだった。


「……いいんだな? 本当に連れて帰っても」


「何度も言わせるなよメンドクせえなあ。いいって言ってるでしょうが」


 思わず聞き返してしまったが、返ってくる答えは変わらない。


「えっ。それじゃ、行こう。梅屋君」


「……そうだな。ちょっと拍子抜けだけど」


 そう言って、金髪シスターに背を向けた瞬間、俺たちを突き刺すような声が、背中に――!



「――『ホーリー・バインド』ッ! アハハハハハッ! そうね、連れて帰ってもいいわ。別にもう、あんな駒共なんて必要ないし。でもね、アタシはさ、お前ら二人に超イライラしてるって事は理解してるんだよなァ? ……死んじゃったらごめんねえー?」


 ――パタリ。


 隣で明日香が力を失い、そのまま床へと倒れてしまう。


 そして、俺も……手足から感覚が徐々に消えていく。さっき、金縛りと言っていたのはこれのことか。せっかく明日香が注意してくれたのに、完全に油断してしまっていた。


(……ここで、俺まで倒れる訳には――)


 二人一緒に倒れてしまえば、あとはあの女のオモチャにされてしまうだけだ。ここは何としても――


「……うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 俺は全身に、全ての力を込めると――失われた感覚が、徐々に戻ってくる。そして、全身全霊で床を蹴り上げ――ビュウウウッ!!


 一気に金髪シスターの元へと飛び込む。



「――何ですって!? アタシの魔法は確かに成功した。まさか、その高いステータスで弾き飛ばしたとでも!?」


 ……細かい理屈とかはどうでもいい。実際、この世界じゃわからない事だらけなんだし。


「そういえば俺、スキルが弱いってお前に捨てられたっけ。――で、今の俺はどうなんだ?」


「――くッ、『ホーリー・バスター』ッ!」


 相手は歯を食いしばり――そのまま別の魔法を叫ぶ。瞬間、白い光のレーザーが、俺に向けて放たれる。って、おい。ここはお前の城じゃないだろ。派手にやってくれるな。


 放たれてしまったものはしょうがない。そのレーザーを俺は軽々と避けて、さらに金髪シスターへと向けて言い放つ。


「まあ、お前があの時捨ててくれたお陰で、今の俺の強さがあるのかもしれないけど」


「――黙りなさい、『ホーリー・ブレード』ッ!」


 放たれた光の斬撃を、俺は右手に握る剣で軽く受け止める。


「確かにスキルは弱いな。――でも、人間ってのは、スキルが全てじゃないだろ」


「――うるさいうるさいうるさいッ! 『ホーリー・エクスプロ――


 ――俺は、そんな物騒な名前の魔法を唱えようとする彼女の叫びを止めるべく、左手で顔面にパンチを入れる。


 エクスプロージョン……『爆発』って言おうとしただろ今。全部もろとも巻き込んで自爆しようとしたのかコイツは。


 そのまま壁に飛ばされ、床に落ちる金髪シスターは、その場でピクピクと動きながら、走る痛みによる呻き声を上げている。


 後ろで倒れていた明日香に力が戻り、拳銃を拾い直して立ち上がると――パンッ、パンッ!


 二発の銃弾が、彼女の両足を狙い撃つ。――工藤茂春の時も思ったが……彼女、意外と容赦ないよな。



「これ以上動かれたら厄介だし、足だけは潰させてもらったわ。……本当にありがとう、梅屋君。私一人じゃ、絶対に助けられなかった」


「……それじゃ、ここから先は任せた。俺が行ったところで迷惑だろ。みんなを連れて帰って、まとめ上げるのは水橋さんの役目だ」


 そう言うと、俺は部屋の窓へと向かう。


 みんなの前に俺が顔を出したら、混乱するだろうし、よく思わない人だっていそうだ。それに、俺には彼女のように、人をまとめる力は俺には無い。


 俺がいれば、いざ戦闘になった時にみんなを弱くしてしまう、ただの邪魔者でしか無いのだから。


「待って、梅屋君。みんなもきっと、梅屋君にお礼が言いたいハズよ」


「お礼を言われたいから助けた訳じゃない。俺なんて、いたところで空気を悪くしちゃうだけだろ。クラスをまとめるのは委員長の仕事だ。あとは任せた。それじゃ」


 ――そう言うと、俺は四階の窓から、そのまま飛び降りる。


「――梅屋君ッ!」


 ……これでいいんだ。それに、今の俺には帰る場所があるからな。もうあのクラスに帰る気は無いんだ。


 ――たった一人の、大切な妹がいるのだから。


 俺には絶対に守らなくちゃいけない、唯葉という存在があるのだから。

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