32.レベル1でも戦える

「助けるって……。そんな事ができると思うの?」


 水橋明日香のその声に対しても、俺はそれを断言するように。


「できる。……俺は頭が良くないから、ちょっと荒っぽい方法しか思いつかないけど、城の奴らだって城の奴らだ。何しても問題ない」


「……まさか、力尽くで?」


「助けたいならそれしかないだろ。水橋さんは……どこかの宿でも借りるから、そこで待ってて」


 まさか、レベル1の明日香を連れて行くわけにもいかないだろう。しかし、彼女は――


「私の事なのに、自分が行かないと意味がないでしょ。……だから私も行く」


「危険だ。あの金髪のシスターだって、兵士の男だって……実際に戦った事はないけどそれなりに強いはず。そんな戦いに水橋さんを巻き込むことはできない」


 ただでさえ、俺のスキル『味方弱化』が邪魔をするのに、そんなハンデを抱えた彼女を守り切れる保証なんてどこにもない。


 ……その事を伝えても、それでも。彼女は退かない。


「私は確かに『レベル1』かもしれない。でも、私だってただのレベル1じゃない。私は


 その言葉と同時、何も持っていなかったはずの彼女の右手に――シュウンッ! 突如、一丁の拳銃が現れる。


 それは、この世界の武器屋では並ぶことがありえない……かつて、俺たちがいた世界の文明レベルの銃器だ。この異世界では存在し得ないはずの物。


 それが、実際に明日香の手元にあった。その拳銃を握りながら、彼女は――


「この世界の銃火器と、現代の拳銃。それも私のスキル『物質錬成』で、弾のリロードの必要はない。どっちが強いかは聞くまでもないわよね。……私の物質錬成は30分も経ったら消えてしまうけれど」


 これがSランクスキル、『物質錬成』。その名の通り、全くのゼロから拳銃を生み出せるほどの物。Sランクというのは伊達じゃないなと思った。


「この力は、誰にも見せる事なくひたすら練習を積み重ねてきた。見つかったら色々と面倒な事になりそうだったし」


 この異世界に存在しない技術を生み出せる存在。そんなものを放っておく訳がない。容易に見せびらかしてはいけないのは明白だ。


 この世界の文明レベルを、一気に底上げすることだって出来るかもしれないその力。ある意味、どんなSランクよりも一番の『最強スキル』だろう。


「でももう関係ない。この私を敵に回した事……死んでも後悔させてやるわ」


 彼女の目には、強い復讐心と怒りが浮かんでいた。そんな人間の強い感情を前にして、俺は……向かう彼女の足取りさえ、止める事が出来なかった。



 ***



「ドルニア王国の人たちは冒険者ギルドの四階で寝泊まりしているはず。私も昨日はそこで泊まったから」


「……でもやりにくいな。俺も冒険者ギルドの人達とは関わりがあるからな……」


 ギルドマスターのウィッツさんに、サブマスターのレインさんはもちろん、当然他の人達にも迷惑はかけられない。


 レベル上げや魔人との戦いとは違った、周りの人達のことも考えた戦い方をしなくてはならないのだ。


「それなら、私が一人で……」


 そんな明日香の言葉に、本末転倒じゃねえか、とツッコミを入れつつ――俺と明日香は、今日の昼に会議が行われたクリディアで一番大きな建物へと向かって二人、夜の街を走る。


 ……正直、自分でも『らしくない』って思う。以前の俺なら、見て見ぬふりをしていたはずなのに。こんな面倒ごと、自ら関わろうなんて思わなかったはずなのに。


 自分でもどうしてかは分からない。何故、俺は助けようと言ったのかすら。そんな俺に向けて、彼女は一言。


「……梅屋君。なんだか少し見ないうちに雰囲気、変わったわね」


「そうなのか? まだ二週間しか経ってないはずなんだけどな」


 俺は、この世界に来て、色々な経験を通して――自分でも気付かないうちに、変わったのだろうか。それが良いほうになのか、悪いほうになのかは自分じゃ分からないけれど。

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