31.再会

 ……会議はそのまま終わりを迎え、中立都市・クリディアが魔族からの防衛の実権を握る事になった。目標は達成だ。


 もしもあのとき、金髪シスターでも兵士の男でも、帰る方法さえ吐いてくれればとも思ったが……まあ、そう都合よく事が運ぶとは思っていなかった。


 仮に帰る方法を知れたとしても、まだやる事は残っている。……何故なら、クリディアからの依頼『防衛戦への参加』を正式に受けたからだ。


 それに、まだこの世界でそれ以外にもやり残した事はある。


 魔人へと改造された唯葉を、人間へと戻す方法を知ることだったり。……聞くなら、魔人に直接聞くのが一番手っ取り早いだろう。


 そういった事もあり、今回の魔族からの攻撃の防衛依頼を受けたのが大きい。魔人に会えるチャンスがあるとすれば、魔族との戦争であるそれくらいだろう。



 そんな俺たち兄妹は、現在別行動をしていた。……思えば、この世界で再会してから一度も離れた事はなかったな。


 妹の唯葉は、クラスメートたちが泊まっているらしい、冒険者ギルドへと行っている。戦力として使えないと無理やりに城から追い出された唯葉は、みんなから相当に心配されていたらしく、顔を見せにいくのだという。



 ……一方の俺も、似たような理由で別行動していた。とは言っても、特に仲の良いクラスメートはいないので、唯葉のようにみんなから心配されていた訳ではないが、一人だけ。放っておいてはいけない相手がいる。


 それは、あの会議の時に顔を合わせた――学級委員、水橋明日香。一人で街を歩いていたところで、ふと声を掛けられたのだった。


「ごめんなさい、梅屋君。私、あのとき……」


 何度も謝ってくる明日香の声を、俺は遮るように言う。


「さっきも言ったけど、何も気にしてない。だから謝らなくても大丈夫。むしろ、謝らなきゃいけないのは俺の方だ。せっかく庇ってくれたのに、自分から逃げるように城を出て行ったんだし。……ごめん」


「そんな、梅屋君が謝ることなんて……」


 そんな事よりも、俺は気になった事があった。


「そういえば、クラスの他の人達は一緒じゃないのか?」


 こんな夜に、街中で一人だなんて、あまりにも不自然だ。


「……私も、あの場所から逃げ出した」


「どうして? 会議の時、Sランクだって言っていたじゃないか。充分戦力に……、まさか」


 そういえば。あの時、会議の時に見せられたステータスには、彼女のステータスには『レベル1』と書かれていた。あれは一体……?


「私は、あれからどんどんクラスが崩壊していくのを見て、絶望した。そして、全てがどうでもよくなった。あんな城の言いなりになるのも、何もかも全てが嫌になった。……その結果がこれ」


 クラスが崩壊……か。何となく想像がつく。せいぜい、あの工藤茂春辺りが調子に乗っているのだろう。会議の時の態度を見ればわかる。


「あの時反抗して、それから何もしない私は当然、居ないものとして扱われた。ただ『Sランク』っていう肩書きの為だけに残されてた。だから、私は交渉したの。会議に出て、最低限役に立って――そして、私を解放してもらうって」


 俺ばかりが、とか勝手に思っていたのが恥ずかしくなってしまうほど、水橋明日香もひどい目に遭っている。……それも、俺なんかを庇ってしまったせいで。


「それで一人だけレベル1だったのか……。水橋さんの味方は一人もいなかった訳じゃない……よな。まさか、水橋さんに限って……」


「ええ、クラスは二つに分かれていたわ。私と工藤、二人のSランクを中心としてね。私のグループは『嫌われ者』だとか呼ばれていたけど」


 城の奴らから嫌われている、と言った意味だろうか。それでも、彼女の元に付く人がいるのは流石のカリスマ性だなと思う。


「まさか、その人たちを見捨てたのか?」


「な訳ないでしょう。私だって、出来ることならみんな一緒に解放したかった。みんな何かしら不満を持っていたから。……でも、私と違って、脅せば動くような戦力を手放すことはできないって」


 脅し、か。どこまで極悪非道なんだろうか、ドルニア王国は。あんな国には防衛の実権を握らせなくて正解だったな。


 という事は、明日香も脅されていたのか。肉体的か、精神的か、全く想像は付かないが……それにも屈しなかったのか。


 レベルとかステータスとか、そんなただの飾りで誇っているような俺なんかよりも。……彼女はずっと強いじゃないか。レベル1が何だ。


「……水橋さん。今でも『助けたい』って気持ちは変わってないよな」


「もちろん、助けられるものなら助けたい。でも、私なんかじゃ――」


 それなら、答えはもう出ているようなものだ。


 ……私なんかじゃ、なんて言葉はいらない。助けたいか、助けたくないか。ただそれだけ。


 あの時、庇ってくれた恩返し――ではないけれど、彼女には借りがある。


 俺は、ただ一言。


「――助けよう」

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