30.決着

 翌日、朝早くから、クリディアで一番大きな建物である冒険者ギルドにて、会議は始まった。


「私達の国、ドルニアは、召喚術式という無限の可能性を持っています。魔族との戦争では、私達ドルニアに全てを任せて頂ければと」


 ……事前に聞いていた通り、ドルニア王国は『召喚者』という圧倒的なアドバンテージを使って、魔族との戦争における実権を狙ってきた。


 対して、サブマスターである、レインは……。


「……何故、ドルニアは指揮を執りたがってるんだ。前回はアタシ達クリディアに丸投げしていただろう。まあ、それが正しい判断だとは思うがな」


 そう強く言い放つ。しかし、それに負けじと金髪シスターも応戦してくる。


「人類の平和の為……ですよ? それ以外に、何かあるとでも?」


 そこで、ウィッツさんは、もう勝負に出ようとしていた。


「その『召喚者』ってのは、実際、どれほどの戦力になるんだい? ……こっちの、『既に魔人を倒した実績のある人間』と、『魔人の力を手に入れた人間』、『前回の防衛戦にて実績のある冒険者』を差し置いて、その召喚者というのを優先する理由はあるのかな」


「ええ。召喚者はいくらでも呼び出せる。つまり、Sランクスキル持ちを量産できるという事。今はまだ三人しか呼び出せていませんが、そもそも『スキル持ち』自体が珍しいのです。Sランクに拘らずとも、充分な戦力となり得ます」


 俺も唯葉も、一言も口出しさえできないような、両サイドとも譲らない会議が加速していく。続いて、ウィッツさんは……。


「急ごしらえのその戦力と、こちらの実績のある戦力。いつ攻めて来るか分からない以上、将来性と即効性。どちらが良いかは明白じゃないかな」


「まるでこちらが育成していないような言い方をされては心外ね。着実に、それもハイペースに進んでいるというのに」


「言葉だけではどうとでも言える。あるだろう? 強さを証明する、たった一つの方法がな」


 レインさんがその言葉を放つと、金髪シスターが一瞬引きつったように見えた。しかし、その流れで、彼女の言う一つの方法……それはもちろん『ステータス』、それを確認しない訳にいかなかった。


 それをただ見ているだけだった俺は、二人の会議の運び方に、ただすごいなぁ……、と感心することしかできなかった。




【工藤 茂春】

《レベル》29

《スキル》超速飛行

《力》32

《守》31

《器用》28

《敏捷》41



【水橋 明日香】

《レベル》1

《スキル》物質錬成

《力》8

《守》7

《器用》13

《敏捷》9



【七瀬 裕美】

《レベル》36

《スキル》未来予知

《力》31

《守》29

《器用》40

《敏捷》35



 工藤に、明日香、そして唯葉のクラスメートの女の子が、前に出てステータスを見せる。


「……これが今ここにいるSランク、三名のステータスよ。確かに急ごしらえではあるけれど、戦力として戦えるレベルではあるはず。さて、そちらはどうなのかしら?」


 ……やはり、低い。俺たちと比べ物にならない程に。ステータスは仕方ないとしても、レベルが低すぎないか?

 Sランクのスキルとやらで、かなり効率的にレベルを上げているとばかり思っていたのだが。


「そうか……。じゃあ、見せてもらった訳だし、こちらも見せない訳にはいかないね。梅屋兄弟、ニール。ステータスを見せてやってくれ」


 俺と唯葉、そして無口な最強冒険者のニールは、前に出て、大きな石版に触れる。



【梅屋 正紀】

《レベル》82

《スキル》味方弱化

《力》255

《守》182

《器用》261

《敏捷》221



【梅屋 唯葉】

《レベル》51

《スキル》状態付与

《力》339

《守》214

《器用》430

《敏捷》268



【ニール・アルセリア】

《レベル》104

《スキル》隠密行動

《力》104

《守》101

《器用》112

《敏捷》110



 素のステータスが高い俺たちと比べればインパクトでは劣るが、レベル100を超えた彼も、並々ならぬステータスを持っている。……それを見た、ドルニア王国サイドは――


「バカなッ!? 何なの、このステータス!?」


「……あり得ん。噂には聞き、危惧はしていたが、これ程とはな……」


 ……さらに驚いていたのが、あの日、俺を追い出そうとしたクラスメート、工藤茂春。


「嘘だろ。俺はSランクだ! なんであんなクラスのモブなんかに……俺が負けてるんだ」


 それ以上に高いのは、魔人となった妹、唯葉のステータス。


 これを見せられたリディエ共和国は、どちらに任せるかは明白だという雰囲気を醸し出しながら。


「これ以上、話し合いを続ける価値はあるのでしょうか。この圧倒的なステータスで決定的になりましたね。ドルニア王国と中立都市・クリディア。どちらに任せれば良いかは明白です」


 リディエ共和国のうちの一人、年老いた女性が言う。


「私達リディエは、中立都市・クリディアに防衛の指揮を執らせるべきという結論に至りました」



 ――勝ちが確定した瞬間だった。どちらにも属さない、リディエ共和国サイドの意見が……多数決の原理で言うならば、実質その場の総意のようなものだからだ。


「――ッ、しかし! ニール・アルセリアはともかく。その二人は、ドルニア王国が召喚したのですよ? それを何故クリディアが!」


 金髪シスターのその言葉で、……俺は、少しイラッとしてしまった。


「……捨てたのはお前達、ドルニアの連中だろうが」


「分かった。あの時追い出したのが悪かった。欲しいものがあるなら渡すし、お金が欲しいならあげる。だから、今からでも遅くない。ドルニア王国に戻ってきてくれるかしら――」


 ……バカか。物で釣れると思われているなんて、甘く見られたものだ。まあ、唯一俺を釣れるとするなら、


「――この世界から帰る方法を教えてくれるなら、そっちに付いても良い。……まあ、方法さえ分かれば、さっさと帰らせてもらうんだが」


「……」


 あんなに勢いのあった金髪シスターは、黙り込んでしまう。


 会議の決着は、着いたも同然だった。

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