29.会議室での再会

「さあ、この会議で全てが決まる。残りの一国、リディエ共和国をいかに味方に付けられるかが勝負の別れ目となるだろうね。……みんな、頼んだよ」


 会議に参加するあとの四人は、ウィッツさんの言葉に静かに頷くと、俺たちは、残りの二国が既に待機している、この建物で一番大きな会議室へと入る。



 部屋には、細長い卓が三つ、各国ごとに三角形状に並べられていた。


 そのうちの一つのテーブルには……俺が見覚えのある人ばかりが座っていたのだった。


 そして、その全員が、同じように驚きの表情を見せる。



「コイツら、どうしてここに……! 確かに追い出したハズなのに、何故ッ!」


 金髪のシスターは、見てはいけないものを見てしまったような焦りを浮かべ、騒いでいる。


 何故って……追い出したからここにいるんだろう。




「梅屋正紀君に、唯葉君……こんな所で会うとはな。――それも、クリディアが用意した『切り札』というのは……な」


 そして、あの時金髪シスターと一緒にいた、兵士の中でも上の方だろうと思っていた、ムキムキの男兵士。


 表情には出さないが、やはり焦っているのだろう。



 ……そして、


「梅屋正紀ッ!? お前、あれから何してたんだよ!」


 工藤茂春。……コイツは、俺を追い出そうと乗り気だったクズなのでどうでも良い。しかし、その隣に座っていたのは。


「……梅屋……君!?」


 あの時、あんな状況にも関わらず、俺の事を庇ってくれた……委員長、水橋明日香の姿だった。


 明日香の目には……涙が浮かんでいた。そして、次の瞬間には、彼女はその場を立ち上がり――


「ごめんなさい、梅屋君っ! 私、あの時、もっと言えてたら。でも、何も言えなくて、それで、梅屋君が――」


 俺の目の前に走ってきて、息を切らしながら言う明日香の言葉を、俺は遮って――


「気にしてないし、ずっと感謝してたんだ。……こんな俺にも、手を差し伸べてくれる人がいるなんて思ってなかったから。でも、あの時は勢いで出て行っちゃったからお礼も言えなかった。――あの時はありがとう」


 俺の言葉に、明日香はさらにぶわっと涙を流して――


「ごめんね、梅屋君。生きててよかった。私、ずっと気がかりだったの。あのとき、もし止められてたらって」


「気にしないでくれ。こっちはこっちで、元気にやってたから」


 本当に、もう城から出て行ったこと自体は気にしていない。結果的に、妹とも再会できた訳だし。


 それでも謝り続ける明日香が見ていられなくなり……俺は、すっかり困り果ててしまう。このままじゃ埒が明かないだろう。なので、


「……これから会議だ。話は後からにしよう」


「……あっ、ごめんなさい。梅屋君を見て、つい」


 普段はあまり笑わないはずの委員長の顔が、少しだけ、笑顔を見せる。



 ……一方の、唯葉も――


「唯葉ちゃん!? どうしてここに……!? みんな心配してたんだよ! ……本当によかった……」


「うん、色々とあってね。今はお兄ちゃんにたまたま出会って、一緒に行動してるの」


 中学生くらいの、小柄で可愛らしい女の子が、驚きの表情で唯葉に話しかけている。一緒に召喚されたという、唯葉のクラスメートなのだろう。



 そんな再会の最中に、一人の女性の声が放たれる。


「あのぉー? アタシたちは感動の再会ごっこをしに来た訳じゃなく。大事な大事な、人類の命運をかけた話し合いをしに来たんですよぉー?」


 金髪シスターが、水をさすように言い放つ。それには、ウィッツさんも――


「……そうだね。まずは会議だ。さあ、席に着いて」


 俺たちは、自分の席へと戻ると、その場で着席する。……そして、ウィッツさんが、いつもの陽気な口調とはうって変わって、真剣な眼差し、口調で言う。


「お待たせしました。これより、ドルニア王国、リディエ共和国、中立都市・クリディアによる合同会議を開催することをここに宣言します」



 ギルドマスター、ウィッツさんの言葉と共に――人類の命運を左右するという、重大な会議が幕を開けた。

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