27.会議の前日

 会議の前日、打ち合わせにて。会議に参加するのは、ウィッツさんと俺たち、そして……。


「アタシはレイン・クディア。このギルドのサブマスターだ」


「……ニール・アルセリア」


 褐色で、背の高くスタイルの良い……肌の露出が多めの鎧を纏う女性。冒険者ギルドでは、ギルドマスターであるウィッツの次に偉い、サブマスターという役職らしい。


 そして、その女性の三分の二ほどの背丈しかない、小柄の銀髪をした、口数の少ない男冒険者。フードを被り、あまり顔を見せていない。


 彼は、前回の魔族の襲来にて、魔族をなんとか撤退まで追い込んだ立役者、世界最強の冒険者らしい。スキルというスキルはなく、その剣一本で頂点へと上り詰めたという。



「話には聞いているぞ。魔人を倒した兄に、魔人へ改造された妹か。……ともあれ、期待させて貰おう」


 サブマスターの女性、レインが、俺と唯葉に向けて言い放つ。


 サブマスターなのに。男でギルドマスターであるウィッツさんよりも何だか圧を感じるのは……どうなのだろう。



 ***



「会議における基本的な発言は、俺とレインに任せてくれ。梅屋兄妹とニールには、盤面をひっくり返す『切り札』としての活躍を期待しているよ」


 ……ドルニア王国の召喚者。


 つまり、俺がいたクラスの二年四組、そして唯葉のクラス、一年二組。その全員分の戦力差を、俺と唯葉、そして最強の冒険者、ニールのたった三人でひっくり返さなければならない。


 ……ここまで、俺と唯葉は確かに、できる限り強くなる努力をしてきた。しかし、それでも。


 Sランクとかいうスキルの存在に、あの城の奴らに、果たして勝てるのだろうか。


 あの時、自分から逃げてしまった相手に、勝てるのだろうか?


「……梅屋君。そんなに深く考える必要はないよ。もしダメだったとしても……俺たちがカバーする。ダテにギルドマスターをしていた訳じゃないからね。それに、俺にだって考えはあるさ。無策で二人を呼んだわけじゃないさ」


「そうだ。別に、お前達二人がいなくともアタシらのやる事は変わらねぇ。そんなに重大な役目じゃねぇよ、胸を張りな」



 ……そして、この会議を前にして、もう一つ、緊張する要因があった。


 それはあの時、この世界に来た日。俺を捨てたあの城の奴ら――あの金髪のシスターや兵士ども。そして、同じ境遇だったはずのクラスメートと、また遭遇してしまうという可能性だった。


 もし、出会ったとして……それは、敵同士で。


 ――しかし、それは同時に、チャンスでもある。


 俺たちを召喚した張本人は、あの王国が『召喚者』を武器として、魔族との戦いにおける実権を握ろうとしている以上、現れる可能性は高い。


 その時に、元に帰る方法さえ聞く事が出来れば。ここにきて初めての、元の世界に帰る手がかりを得るためのチャンスだろう。



「さて、もう質問が無いなら、今日の予定は終了だよ。明日の会議に備えて、各自万全の状態で挑むこと。……ヒューディアルの人間、全ての命運がかかった会議だからね。失敗は許されないよ」



 ……ついにここまで来たか。


 捨てられたあの時から、まだ二週間と少し。なのに、とても久しぶりに顔を合わせるように感じる。


 ついに、このクリディアの会議にて、俺を捨てたドルニア王国との、直接対決が始まる。


 魔族の襲来からの防衛、その実権をクリディアが握るため。そして――元の世界に帰る方法を、手に入れる為に。

 

 

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