26.クリディアでの五日間

「すごい……、魔導書がいっぱいある……」


 次の日。俺たちは、クリディアの街の外れにある魔導書屋へとやってきた。


 冒険者ギルドがある街、という事で需要が高いのだろうか、ドルニアの王都にあった店よりもかなり大きい。




 魔導書にも色々ある。例えば、唯葉が既に覚えた無属性の初級魔法についての魔導書は……同じ魔法のはずなのに、二十種類ほどあったりする。


 その中で唯葉が探していたのは……俺が買ったあの本と、同一の作者のものだ。一度読んで、ちゃんと覚えられた事への安心感からだろう。


 俺も別の作者のなら……とも思ったが、ぱっと見どれを見ても理解できなさそうなので、俺は魔法を覚えるのをきっぱりと諦めることにした。


「どうせすぐにマスターしそうだし、まとめて何冊か買っておいてもいいんじゃないか?」


「いいの? いくらお金があっても、魔導書は高いんだよ?」


「唯葉がお金の事なんか気にしなくていいんだ。それに、唯葉が魔法を使えるようになってくれたら俺も楽になるんだし」


 そもそも、元の世界に帰る手立てがあれば俺たちはすぐに帰るんだ。お金を余らせておくよりは、使っておいた方が得だろう。



 唯葉が魔導書をじっくりと選んでいる間に……。俺は、違う棚の別の物を見ていた。


「……アクセサリー、か」


 魔力を高める指輪とか、ネックレスとか、ブローチとか。本当に効果があるのかはよくわからない、怪しいものが並んでいる。


 効果があるのかは知らないが、純粋にアクセサリーとしては綺麗なものばかりだ。宝石が埋め込まれていたり、普通に着けているだけでも良い感じだ。


「唯葉にプレゼントでもするか。……無事に、またこの世界で会えたんだしな」


 そう言うと、唯葉が好きな水色の石が埋め込まれたネックレスを手に取り、会計を済ませる。



 その間に、唯葉は買う魔導書を選び終えたらしい。


 まず、無属性魔法の中級と上級。唯葉が覚えた魔法のさらに延長線上にあるものだ。


 唯葉が言うには、ぱっと見で便利な魔法がいっぱいあったらしい。


 そして、雷属性魔法の初級、中級も買うことにした。こちらは普通に攻撃魔法として使えるものが多いらしい。


 これだけあれば、流石にしばらくはもってくれるだろう。中級、上級と上がっていくたびに、本の分厚さと値段も上がっていくので、魔導書とアクセサリー、合わせて小金貨3枚ほどの出費。


 まあ、費用対効果を考えれば良い買い物をしたと思う。



「唯葉。……魔力が上がるネックレス、らしいぞ。水色、確か好きだったろ」


「本当!? ……ありがとう、お兄ちゃんっ!」


 そういえば、唯葉が着けてるこのヘアピンも、確か俺が買ってあげたやつだったっけ。


 かなり昔に、一緒に出かけたときに買ったものだ。


 ……まるで、今日のように。




 あとは、お金が入ったら唯葉の防具を買おうとしていたことを思い出したので、武具屋へ。


 唯葉も、素のステータスはかなり高いし、そもそも後衛なので鉄製の物は着けれるとしてもいらないだろう。そう思っていたのだが……。


 念には念と、金属製。それも、鋼鉄でできたかなりの防御力を誇るものを買うことにした。硬さは鉄なんかとは比べ物にならないだろう。


 小金貨3枚と、かなり高価ではあるが。魔族との戦いでは、何が起こるのか予想もつかない。いくら後衛だとしても、……もし、俺が倒されてしまえば、唯葉は一人で戦わなきゃいけなくなってしまう。


「……さすがに高すぎるよ。もっと他の事に使った方がいいんじゃない……?」


 唯葉はそう言うが、俺はこういう事にはお金を惜しまないタイプの人間だ。


 いくらお金を持っていても、死んでしまえば意味がないんだからな。お金で死んだ人間を生き返らせることが出来るわけでもあるまいし。



 ***



 こうして、魔族との戦いに万全に備えた俺たちは……。


 残りの四日間、昼間は適当に外食したり遊んだり、だらだらしたりして、クリディアを満喫して過ごす。


 そして、夜には魔物を狩ってレベルを上げるため、街の外へと駆り出す。


 次第にレベルも上がり、息もどんどんぴったりになっていき、レベル上げの効率もグングンと上がっていった。



 ……そして、俺たちが自由である五日間の最終日は、夜のレベル上げには行かずに、宿で過ごしていた。


 明日は会議の打ち合わせがあって朝早いので、早めに寝ることにしたのだ。


「明日は会議の打ち合わせ……か。ちょっと緊張するな」


「ウィッツさんみたいに、優しそうな人ばかりだといいよね……」


 俺と唯葉は、ふと石板でステータスを確認してみる。昨日までの努力の成果の再確認だ。



【梅屋 正紀】


《体力》100/100%

《レベル》82

《スキル》味方弱化

《力》255

《守》182

《器用》261

《敏捷》221


 俺はレベルが82まで上がり、ステータスも200を超えるものが多くなってきた。そして、素のステータスが高い唯葉は……。


【梅屋 唯葉】

《レベル》51

《スキル》状態付与

《力》339

《守》214

《器用》430

《敏捷》268


 ……レベル51にして、全てのステータスが抜かれてしまった。だんだんと俺がお荷物になりつつある。


 それに、スキマ時間で雷の初級魔法まで覚えてしまったのだが、魔力の数値が高いせいか、夜の魔物くらいなら軽々と感電させて、ショック死させることができるようになった。


 レベルの上がり方が尋常じゃないのは、唯葉の急成長によって飛躍的に経験値効率が良くなったのが大きい。



 ……とりあえず、やる事は全てやったし、まずは明日の打ち合わせ、そして明後日の会議だ。

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