25.真夜中のレベル上げ

 俺と唯葉は、街を抜け出し……夜の強い魔物が闊歩する草原へとやってきた。


 もちろん街の外に灯りはないので、唯葉のスマホのライトで照らして、視界を確保する。


「私、夜に外に出るの初めて……」


「俺もキリハ村を目指して歩いた時以来か……。唯葉、俺の『味方弱化』がある事を忘れないで、むやみに俺の元から離れちゃダメだぞ」


 唯葉のステータスなら、夜の魔物でも戦えるかもしれない。……しかし、ここにきてまた、俺の『味方弱化』スキルが邪魔をする。


 この味方弱化、目の前で発動したことはあるが、余裕のない状況だったので、どれほどステータスが下がってしまうのかは知らなかった。


「……唯葉。後で戦ってる時に、余裕があったらこの石版でどれくらいステータスが下がってるか、見ておいてくれ」


「うん、わかった」


 ……せっかくの機会だし、確かめておくことにした。



 あの時、俺がレベル上げに利用した赤い魔法陣。あれがあれば良かったのだが、ここからは見当たらない。魔物はかなりの数いるのだが。


 多分だが、俺があの魔法陣を見つけた時は夜になったばかりで、魔法陣からはまだ魔物もそう多く湧いてなかった。


 でも、今はみんな寝静まってから時間も経った夜中だ。その間にも、魔法陣から湧き出てきた夜の魔物たちはどんどんと増え続け、こうなってしまったのだろう。夜の外は危険、とはこういう事だったんだな……。


 あの魔法陣さえ制圧できれば、一気にレベルを稼げるが……、今は唯葉もいるし、無理に危険を冒すのはやめておこう。




 早速、近くにいた二メートルくらいの大きさをした黒い獣の魔物の元へと向かう。


 そして、敵を前にして……。


「唯葉。体が重くなった感じは」


「うん。急に体が動かなくなってきちゃった。……ステータスは……」


 唯葉は、俺が渡した石板でステータスを確認する。


【梅屋 唯葉】

《レベル》12

《スキル》状態付与

《力》42

《守》32

《器用》57

《敏捷》40


 ……


《状態変化》全ステータス弱化


 前に見たのと比べたら、丁度半分くらいか……。今の状態でも、レベル12なら充分に高い数値だとは思うが……。


 ただ、夜の手ごわい魔物を相手にできるほどのステータスかと言われれば、微妙なところだろう。


「そうか。……唯葉は下がっててくれ」


 やはり、直接戦わせるのには不安が残る。……しかし唯葉は、


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。――見てて」


 そう言うと、一歩だけ前にでて、黒い獣のほうへと手を伸ばす。そして、


「――『マジック・ハンド』ッ!」


 さっき宿では見せなかった、初めて見る魔法だ。


 唯葉が叫ぶと――手の先からもう一つ。白い手が現れ、黒い獣の方へと飛んでいく。


 そして、白い手は獣の胴体に触れると……次に。


「状態付与……、『毒』!」


 そう言った瞬間に、黒い獣は――グガアアァァァッ!! 苦しそうな悲鳴を上げながら、地面に倒れて転げ回る。


 そして、それからわずか20秒ほどで、獣の動きが弱まっていき……ついに動かなくなった。


「ね? 今なら使いこなせるって言ったでしょ?」



 唯葉のスキル『状態付与』は、話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。……しかし、話に聞いていただけでも『使いにくそう』という感想だった。


 状態付与は、手で触れた相手にさまざまな状態異常を与えるスキル。毒や麻痺、眠気に吐き気など、文字通りさまざまな効果を与えられる。


 それだけ聞けば強そうかもしれないが……やはりこのスキルは『手で触れること』が発動条件なのだ。


 相手が大人しく棒立ちしているならまだしも、実戦ではそんな状況はありえない。


 よって、そのスキルのランクはDで、Fランクの俺とは違って、しばらくは城に残されたが、結局何もできずに戦力外として捨てられたと言う。……しかし。


「マジックハンドは、私の手の分身を遠くに飛ばせる魔法だから、もう近づかなくても大丈夫。あの手を攻撃されても、感覚はないから痛みは感じないよ」


 効果の強さは、今目の前で実証された。あの獣が一瞬にして苦しみ、そのまま勝手に倒れていくほどの強力な毒だ。


「……初めて見たけど、これが本当にDランクのスキルなのか? 使いようによってはかなり強いと思うんだが」


「魔法がなかったら、敵の所に走っていって、直接触らないといけないから。……私、元々運動は嫌いだし……」


 しかし、そのデメリットを克服した今、このスキルはかなり役立つ物になった。……というか、唯葉の主力として使えるレベルの強さだ。


 多分、唯葉の状態異常は、ステータスとは違って俺の味方弱化の影響を受けていなさそうに見える。それも相まって、俺との相性も抜群じゃないのか……?



 ***



「――状態付与、『睡眠』!」


 唯葉の状態付与で、魔物を眠らせて……。


「はああぁぁぁぁッ!」


 俺が一気に走り、魔物を剣で一撃。



 ……このコンボが、どの魔物にも刺さる。


 唯葉の手は20メートルほど届くので、唯葉が眠らせた魔物を俺が倒しに行っている間に――


「『マジック・ハンド』――からの状態付与、『毒』っ!」


 こちらは倒すのに少し時間はかかるが、片手間としてついでに倒すのにはちょうどいい。


 魔法陣の前で出待ちするよりも、さらに効率が良いこのレベル上げ。


 ――俺たちはそれを一時間ほど続けた。



「そろそろ疲れたな……。唯葉は、大丈夫か?」


「私はあまり動いてないから平気だよ。お兄ちゃんこそ、ずっと走り回ってたから……今日はもう帰ろう?」


 ――地面に座り込むと、俺たちはステータスをチェックする。


【梅屋 正紀】

《レベル》69

《スキル》味方弱化

《力》217

《守》158

《器用》227

《敏捷》196


 一時間でレベル5か。やはり高くなってきたからか上がりにくいな。そして、唯葉は……。


【梅屋 唯葉】

《レベル》28

《スキル》状態付与

《力》160

《守》126

《器用》242

《敏捷》158


 ……そして、唯葉の場合は忘れてはいけないステータスが。


《魔力》211


 何だこれ。数字が軽くインフレしている。……レベル28とはなんなのだろう?


 一時間でレベルが16も上がったのは、大きな収穫だ。……この調子なら、明日からも同じように稼げそうだな。


 今日は充分に稼いだので……俺たちは、宿へと戻り、疲れた体を休ませることにした。

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