13.ダンジョンの最奥で待つものは
再び見つけたあの赤い魔法陣。三体同時に現れるので、あの時よりも忙しくはあるが、それでも不意をつきやすいので普通に戦うよりは全然楽だ。
そんな魔法陣で魔物を狩り続けて待っていると、ついに首元の共鳴石が震えだした。
『こちらB班です。隠し階段を見つけました。皆さん、一度戻ってきてください』
その報告を聞いて、十分に経験値も稼いだ俺は一度戻る事にする。
《体力》86/100%
《レベル》62
《スキル》味方弱化
《力》198
《守》145
《器用》205
《敏捷》179
体感、レベルが上がりにくくなってきた気がするな。
あの石版、どれくらいの経験値が必要なのかとかは教えてくれないし、はっきりとした事は言えないが……60を超えたあたりから一気に上がりにくくなった気がする。
***
B班が見つけた隠し階段を前にして、久しぶりに全てのパーティが揃った。
「できる限り魔物は倒したつもりですが……」
目についた魔物はすべて倒し、魔物が湧きだす魔法陣の前で魔物を倒し続けた。出来る限りの事はやったつもりだ。……それが功を制したのか、
「ああ。お陰でこちらは一度魔物と遭遇しただけだった。ありがとう」
「こちらは魔物には一度と遭遇しませんでした。逆に不気味でしたよ……」
「こっちも何もいなかったぜ。すげーなお前……」
村長の率いるパーティに一体、魔物を残してしまったが、それ以外は完璧に倒し切っていたらしい。レベルの高い村長のいるパーティで助かった……。
誰一人欠けることなく、ここまで来れたのはかなり大きい。
さて、本題の隠し階段。小部屋にあったクローゼットをどかすと出てきたらしい。こんなのよく見つけられたな……。俺一人だったらダンジョンを永遠に彷徨うことになっていたかもしれない。
「俺が先に行きます。安全を確認したら共鳴石で伝えるので、それまではここで待っていてください」
「分かった。梅屋君、……村の命は、全て君に託す。無力な俺たちを助けてほしい……ッ」
「はい。必ず連れて帰ってきます」
必死に頼み込む村長に対して、俺はそう一言だけ告げると、隠し階段を降りていく。
……長い階段を降りていくと、大きな部屋へと繋がっていた。部屋の奥にはベッドが沢山並べられていて、その全てに。
――女性が寝かされていた。鎖で繋がれて、意識を失っているようだ。
(……無事、なのか?)
そして、その部屋に一人、背中を見せて立っている、背の高い人影があった。
恐る恐る、部屋へと入ると……。
「フンッ、人間の癖にこんな所まで辿り着けるとは。貴様、何者だ?」
背中を見せて立っていた人影が、こちらを向く。
――それは、人間じゃなかった。
紫色の肌をした、紅い目を持つ男。長くて白い髪を下ろすその男は、異様な威圧感を放ち続けている。
一体何なのだろうか。最近聞いた単語で思いつくものといえば――村長の昔話に出てきた……、
「まさか、魔人……!?」
「正解だ。我は二ヶ月前の戦争の際にこの大陸に残った魔人――『アニロア』」
二ヶ月前の……戦争? 500年前じゃないのか? つい最近にも魔族との戦争があったとでも言うのか。
――まさか!
その瞬間、全てが繋がった。俺がこの世界にいる理由と、この魔人の言葉が。
そういえばあの時、城で俺たちは勇者と呼ばれていた。つまり、何かと戦わされるんだろうなと。そう思っていた。
そして、二ヶ月前に魔族との戦争があった。この二つの話が無関係な訳が無い!
魔族との戦争の為に、俺はこの世界へと呼ばれた。……つまり、そういう事だったのか。
クラスの他の奴らはもう知っているんだろうな。俺はすぐにあの場から捨てられたから、今やっと気づいたのに。
アニロアと名乗った魔人は、そんな俺に向けて的確に言い放つ。
「五百年前の戦争で貴様ら人間が考えた事と同じだ。我ら魔族はこのヒューディアルにしか存在しない、『ある資源』を欲している」
「ある資源……?」
「ああ。それを手に入れれば我ら魔族はさらに一個上の存在になれるという訳だ。……五百年前、貴様らも同じような理由で同じ事をした。文句を言える義理は無いだろう?」
確かに、そうなのかもしれない。
……でも、その戦争とこの村の人たちは何も関係ないだろう。
「それでも……村の人は関係ないだろ」
アニロアは、ふんっと鼻で笑い……。
「そんなの決まっているだろう。一度攻めあぐねた我らに必要なのは戦力だ。だからコイツらを
……今、なんて?
……魔人へと改造した、と言ったのか?
「魔人に……って事は、みんなは――」
「――もう手遅れだ。我の命令に忠実に従う、操り人形にさせてもらった」
――ッ!
いくら魔族と人間が対立しているにしても。……この村の人たちは関係ないだろう。
何もしていないのに巻き込まれて。そう思った時、俺の中で怒りの感情が爆発して――
「ちっくしょおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
気づけばアニロアの元へと走り出していた。
「……人間如きが」
アニロアは、走る俺を見据えながらも、一歩も動く事なく静かに呟くと、
「――魔人に勝てる訳がないのだッ!!」
強く言い放つと、同時。アニロアは俺に指を指すと、その先から――ゴオッ!!
オレンジ色の熱線が放たれる。
アニロアの動きに不穏なものを感じた俺は、一旦横へ飛ぶ。――直後、俺の真横を熱線が一瞬にして通り過ぎていく。
通り過ぎた熱線は、直接触れずとも、皮膚の表面をヒリヒリとさせるような熱を与えてくる。
それでも、今は堪える。そのまま走り続けて、魔人アニロアの懐へ潜り込み――スパンッ!!
斬撃は、アニロアの右腕を切り裂き、大量の鮮血が流れだす。
「――ぐッ、クソがァァ!!」
致命傷を与えることが出来ず、アニロアは痛みに悶えながらも、切り裂かれていない左腕を動かし――バキィッ!!
俺は全力で殴り飛ばされ……骨の砕けるような音と共に、壁へと叩きつけられてそのまま地面へドスンと転がり落ちる。
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