11.奪還作戦、開始

「これより、奪還作戦を開始するッ!! この先は何が起こってもおかしくない、ダンジョンだ! 気を抜かず、常に細心の注意を払うようにッ」


 先頭に立つ村長が声を張り上げて言う。俺と村の人をあわせた合計三十名は、ついに村の女性がさらわれていったというダンジョンの前へとたどり着いた。


「動きは昨日確認した通り、先頭を高いステータスを持つ梅屋君に任せる。ただし、彼と一緒に戦うことは『味方弱化』のスキルがある以上不可能だ」


 俺は一人で先頭を進み、中の強力な魔物たちを殲滅していく。そして、残りの村の人たちは三つのパーティに分かれ、それぞれ別の場所を探索していく。そして、


「それぞれのパーティのリーダー、そして梅屋君にはこの『共鳴石』を渡す。何かあればこの共鳴石で他のパーティに知らせる事」


 共鳴石。同じ共鳴石から作ったもの同士なら、力を込めるだけでトランシーバーのように音が伝わるようになる便利なもの。しかもどんなに離れていても使えるという中々のチートアイテムだ。


 もちろんこんなものが安く売っているはずもなく、前にダンジョンへ挑もうとした時に村の大金をはたいて買った代物だという。


「それでは梅屋君。先頭は任せた」


「……はい!」



 ***



 俺は洞窟のような、でも洞窟にしては足元も歩きやすく整備されているような、少し違和感のあるダンジョンの中を歩く。


 首から下げている水色の、宝石のように煌めく共鳴石はトランシーバー機能以外でも非常に便利。


 この石、常に水色の光を放ち続けているので、照明代わりとしても使うことができる。戦う時でも、松明とかを持つ必要がないのはありがたい。


 ……っと。早速目の前には、赤色の肌をした、前に見たゴブリンに似てはいるがそれよりもさらに屈強な魔物が現れる。手には変わらず巨大なバットのような、ごつい棍棒をもっている。


 相手は一体。一対一なら――勝てる!


「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 俺は強く握った剣を構えて、赤いゴブリンへと走り出す。そして、一撃叩き込むが――ガキンッ!!


 鈍い音と共に、大きな棍棒によって弾かれてしまう。


「速い。前に戦ったゴブリンの比じゃないぞ……」


 速さも、力も、これまでの敵とは異次元の強さ。こんなのをここから先、何度も相手にしなければならないのか……。


 俺は反動で倒れそうになるも、なんとか踏んばり――ダッ!! と、地面を蹴って再び赤いゴブリンの方へ飛び込んでいく。そして、


 ――スパンッ!!


 剣を振るうが……早く振りすぎたせいか、剣の先端で腕を軽く切り裂いただけで致命傷を与える事が出来なかった。


 俺に生まれた僅かな隙を突いて、そこから相手のゴブリンによる棍棒の反撃が横から襲いかかってくる。


 ――ゴンッ! という鈍い音と共に、俺は体ごと壁に叩きつけられる。


「――ッがああぁぁぁ!」


 鉄製の防具を着ていても尚、相手の力が強すぎて全身に痛みが走る。


 しかしこんな所でやられている訳にはいかない。ここはまだダンジョンでも相当浅い場所のはずだ。俺はなんとか再び立ち上がると、落とした剣を再び右手で掴む。



 赤いゴブリンを見ると、さっき与えた浅い傷から、赤い鮮血がだらだらと垂れている。つまり、俺の攻撃は通用するということ。


「――あとはどちらが先に当てられるかだ!」


 俺は痛みを堪えながらも一気に走る。再び赤いゴブリンと距離を詰めた俺は、


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 今度は剣を目の前からまっすぐに、――グサリ!


 再び棍棒で振り払おうとする赤いゴブリンの手に、剣を刺しこむ。


「――グオォォォォォォォッ!!」


 うめき声を上げながらも、赤いゴブリンは暴れて反撃に出る。巻き込まれかけて、一度後ろに下がった俺は――理性を失い暴れ続けるゴブリンの、横腹を剣で一撃!


 ――ジャキィィッ!!


「ガッ、グアアァァァ……ッ」


 赤いゴブリンはその場で倒れ、そのまま消えていく。


「はあ……。こんなのがこれから先、何体も出てくるのか……?」


 今回は一対一だからまだ何とかなったのかもしれないが、あれが同時に何体も出てきたら……数の違いでボコボコにされそうだ。


 ところで、こんなに手強い相手と戦ったんだから、経験値はそれに見合うほど入ってもおかしくないんじゃないか?


 そう思い、バッグから携帯型の石版を取り出して、指で触れる。



《体力》82/100%

《レベル》43

《スキル》味方弱化

《力》148

《守》106

《器用》154

《敏捷》129


 ……確か前見たときはレベル42だったから、1だけ上がったな。


 あんな強いのと戦ってそれだけか、とも思ったが、それはあの時、赤い魔法陣から現れるゴブリンをノーリスクで倒し続けていた時と比べての話だ。


 そんな都合の良い事ばかりではないよなぁ、と納得して、俺は再び先に進む。


 そういえば、もう村のみんなもこのダンジョンに入った頃だろうか。


 何かあればこの共鳴石で連絡が来るはずなので、今のところは誰かがやられたりもしていなければ、ヒントなんかも見つかっていないのだろう。もちろん俺も自分の仕事を全うしながら、みんなの発見も気長に待つとしよう。

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