10.戦闘では一人でも
「紹介しよう! 彼が今回の作戦の切り札、梅屋正紀君だ! 今回の作戦のかなめであり、人間離れした高いステータスを持つ冒険者だッ!」
次の日の朝。村の広場に集まる男衆の前で、村のみんなに紹介される。こう、前に出て喋る経験なんてほぼゼロなので、緊張で歯がガチガチと震えてしまう。
「う、梅屋正紀です。今回、奪還作戦に参加する事になりました。よろしくお願いしますっ!」
はぁー、緊張した……! テンプレ染みた事しか喋れなかったけど、何とか乗り切れたっぽいぞ……。
村の人たちは俺の言葉で『よく言ったーッ!』『次こそはーッ!』『反撃だああッ!!』みたいな声で大盛り上がりだ。
「作戦の流れは、ダンジョンの内部が未知な以上、その場その場で臨機応変に指示を出さなければならない。……ハッキリ言おう。全員生きて帰ってこられる保証は無い」
村長のワントーン下がった最後の言葉に、村の人たちは静まり返る。
「もちろん、作戦への参加に強制はしない。それでも付いてきてくれるという人だけ付いてきてくれ。決して来なかった者を責めたりはしない。……村の者が何人も死んだ。それを間近で見てきたのだから無理もない。本作戦に参加しない者はもう帰っても構わん」
村長のその言葉を聞いて、背中を見せた村人は……なんと、一人もいなかった。
「全員……来てくれるんですね」
「くっ……これまでに何人も死なせてしまった、こんなダメな村長なのに、まだ付いてきてくれるなんて……ッ」
村長は、普段は絶対に見せないであろう涙を堪えるが、堪えきれずにただ一粒だけ、涙を流す。
「……明日の朝出発だッ! それまでに各自、旅支度と戦闘用意――ッ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおーーーーッ!!!」」」
その日一番の、反撃の雄叫びがこの村から大爆発を起こすかのように放たれる。
***
「そんな革製じゃ心もとないだろう。俺のお古だがこれをやろう」
そう言って渡されたのは、金額的にも、重さ的にも、あの時躊躇した金属製の防具だった。
相当使い込まれていて、あちこちに傷がある。
「そんなに高い物ではないが、革よりは安心できるだろう?」
「あ……、ありがとうございます!」
なかなか重いし装備できるのだろうか、と不安だったが、
「よく似合っている。奥でホコリを被せておくより、君に使ってもらったほうがその防具も嬉しいだろう」
レベルも上がり、ステータスが一気に上がったおかげなのだろうか? こんな鉄でできた重い物を着ていても、普通に動くことができる。
防御性能も申し分なく、攻撃を直に受けても大丈夫そうだ。
「ところでその『味方弱化』スキル。具体的にどれほど弱くなるのかは分かるか?」
「分かりません。ずっと一人でしたから」
「……そうか」
そういえば、このスキル。いるだけで近くの味方が弱くなってしまうという事は聞いたが、実際にどれほど下がるのかが分からない。
それに、『味方』という定義も、曖昧な気がする。味方とそうじゃない者の基準は一体なんなんだろう?
例えば、村長や村の人たちと一緒に奪還作戦へと向かう事が決まった。その時点で、RPGとかならパーティを組んでいるようなものだろう。
でも、今の段階ではみんなには変わったところは無いように見える。見えてないだけで、実際は影響を及ぼしてしまっているのかもしれないが。
「村長は今、俺の弱体化の影響は受けてますか?」
「いや、特に変わった所はないな。一応石版でも確認しておこう」
村長は石版に手を置く。
【リーク・フェルド】
《レベル》61
《スキル》――
《力》61
《守》57
《器用》28
《敏捷》51
レベル61。やっぱり高いな……。でも、能力値はレベル42の俺よりも軒並み低い。まさかここまでの差だとは思わなかった。
そういえば、ずっと村長って呼んでたから名前は知らなかったけど、リーク・フェルドというらしい。
名前の表記的に日本とは逆で、フェルドが姓でリークが名前だと思う。
石版をそのまま読み進めていき。
……
…………
《状態変化》――
「何も書いていないな。今は味方弱化の影響は受けていないようだ」
……という事は。
「味方弱化が発動するのは、敵を前にして『戦っている』時だけ」
「それが一番可能性としては高いな。しかしそれだと……」
そう。いくら村の人たちが協力してくれようとしても。結局こうなる事は分かっていた。
「分かってます。元々俺は一人で行こうとしていましたから」
「ああ。済まないな……この村の者には魔物と戦うことに慣れていない者が多い。それに加えて弱体化の影響を受けてしまえば……」
この『味方弱化』スキルがある限り、パーティを組んで戦う事は出来ないのだ。いるだけで迷惑をかけてしまうからだ。
「大丈夫です。代わりに俺にはこの高いステータスがありますから」
その代わりに手に入れた高いステータス。一人でパーティ一つ分の働きをしろと、そう言われているかのようなこの力。
……一人でも構わない。だって、元々俺はクラスとか、そういった所で群れるのは好きじゃないんだから。
それに、戦闘では一人だとしても。こうして村の人たちは、戦闘以外の事で優しくしてくれる。これが『味方』じゃなくて、一体何だと言うのか?
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