7.『味方弱化』の真意
日が昇ると同時に、俺はドルニア王国からリディエ共和国までの道のりで最初の村、『キリハ村』へとたどり着いた。……のだが。
「夜に外を出歩いてどうして無事なんだ? 真っ暗で魔物も凶暴な中どうやって生き延びたんだ!?」
……と、村の人たちに出迎えられてしまった。
「……たまたまです」
「たまたま……か。夜に人里の外を出歩いた者で帰ってこられる者のはほんの一握りの冒険者くらいなのだが……それをたまたまで済ませるのはちょっと無理があるな」
……というやり取りの末、出迎えられたうちの一人、後々村長だと聞かされた若い男に、村で一番大きな建物へと連れて行かれてしまった。
***
「……で。別に口外したりはしない。どうやって夜の外を生き延びた? 見たところ、とてもじゃないがそんな冒険者には見えないが……」
特に悪い人でもなさそうだし、言うまで解放されることはなさそうだし、仕方がないので夜にあった出来事を話すことにする。
「……なるほどな。君が見た赤い魔法陣というのは、この大陸の呪いの事で間違いないだろう」
「……呪い?」
「ああ。……少し昔話をしようか」
***
――500年ほど前。この大陸で穏やかに暮らしていた人間たちは、いずれ尽きるであろう資源を求めて、この大陸の海を越えた先、四方に大きく広がる、魔族が住み、治める大陸を手に入れようと攻め込んだ。
しかし魔族、その中でも特に『魔人』の存在は、あまりにも強大だった。攻め込む事に失敗した人間は、報復として人間の住む大陸「ヒューディアル」へと、呪いをかけられた。
「……その呪いによって、この大陸には魔物が現れるようになった。夜になればその呪いはさらに強まり、各地には強い力をもつ魔物が闊歩して、人々は今も、夜の間は人里から出られない暮らしを続けているという訳だ」
……これだけ聞いたら、人間側が先に仕掛けた訳だし、仕方ないんじゃないかと思う。でも、
(……あのゴブリン、そんなに強かったか?)
あのゴブリンたち、俺の攻撃が一撃で沈んでいたぞ。確かに二体いたとはいえ、初めて背中に一撃入れられたし、昼間の魔物よりは凶暴なのだろうが、大人数で戦えばなんとかなるんじゃないのか。
……ひとまず生き延びたのは事実だし、本当にたまたま、ミラクルが起こって弱い敵しか目の前に現れなかったのかもしれない、と、深いことは考えずに話を進める。
「……ところで。梅屋君と言ったな? 夜の魔物と戦えるほどの実力を持つ君のステータスが知りたい。その石版に触れてくれるか?」
やっぱ聞かれるよなぁ。相当驚かれてしまった訳だし。
この世界の平均とかがわからないので、あまり無闇に見せたくはないが……この状況で見せなかったら、それはそれで怪しまれてしまうだろう。――仕方がない。
俺は村長の家の中に置いてある、宿屋にあったような、大きな石版へと手を置いてみる。
《体力》73/100%
《レベル》42
《スキル》味方弱化
《力》145
《守》104
《器用》152
《敏捷》128
おお。この村まで来る途中でも魔物を倒しながら歩いていたからか、また一つだけレベルが上がっている。
そういえば、体力っていうステータス。てっきりあの時背中を殴られたせいで減ったものかと思っていたが、あの時から痛みは引いているのに体力はさらに減っている。
きっと寝てないのと、一日剣を振り続けた疲れのせいだろう。ゲームみたいに、ケガとか純粋な痛みだけで体力が減る訳じゃないんだな。そこのところはなんだかリアルだ。
そして、ステータスを見た村長の反応は……。
「……なんだこれは」
やっぱりあの時、レベルを上げすぎてしまったのだろうか?
「やっぱりレベル、ですかね?」
「いや。レベルはその若さでも毎日鍛錬していれば辿り着ける程度ではあるし何もおかしくはない。確かに高いとは思うが……。でもな」
でも?
「レベルに対してステータスが高すぎる。そのレベルなら、どんなに優秀でもどれか一つの項目で60を越えている程度のはず。……本当に人間か?」
レベルに対してステータスが高い……。つまり、俺は周りの人たちよりも成長が早いということだろうか。
でも一体何故だろう? 俺は別に元々運動神経も普通だし、特に目立った特技もない人並みの人間なはず。
「一つ考えられるのは……そのスキルか」
若い村長の男は少し考えると、続けて。
「『味方弱化』、その名の通り味方を弱くするスキルなのだろう。……しかし、スキルというのは本来、メリットがあるはずの物なんだ」
しかし、俺のスキルは周りの人間を見境なく弱体化してしまうハズレスキルだとあの時言われてしまった。
そのおかげで今、一人ぼっちで旅をする事になっている訳だし。これがメリットである訳がないだろう。
「でもこんなスキル、メリットな訳ないじゃないですか」
「そうだ。でも逆に考えれば……つまり、そのスキル。味方を弱くしてしまうというデメリットを対価として、そのあり得ないほどに高いステータスを手に入れたんじゃないのか?」
「そうだったのか……?」
「二つの不可解な点をただ繋げてみただけだ。これが合っているのかは保証出来ないが」
なるほど。高いステータスを得た代わりに、一人で戦わなければならない。……そういう事か。
あの時、強いと言われている夜の魔物、ゴブリンと戦えていたのもそのステータスのお陰だったのかもしれない。
――それならやってやろうじゃないか。俺は元々一人のほうが好きなんだ。こっちのほうが好都合。
あんなクラスの奴らと一緒に戦うのも、あんな王国の奴らに従って戦うのもゴメンだったからな。
俺はもう追い出されたんだ。ならば、勝手に帰る方法を探しながら、自由に異世界を過ごさせてもらうとしよう。
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