6.赤い魔法陣
少しでも照明が欲しいと、得体の知れない赤い光の元へと向かったが……。
「……何だアレ。人間みたいな形をしてるけど肌の色も緑っぽいし、背も低い……ゴブリンってやつか?」
よく遊んでいたゲームに、そんな特徴の敵キャラがいた気がする。合っているのかは置いておいて、この場ではとりあえずゴブリンと呼ぶことにしよう。
そのゴブリンが、赤い光の周りに三体ほど立っている。……どう見ても友好的……には見えないな。ゴツゴツしたバットのような長い武器も持ってるし。昔ながらのヤンキーみたい。
まずはあの三体のゴブリンを倒そう。途中、あまりにも敵が弱すぎて、奮発した装備代がムダ金になったか? とか思ったけど、あのゴブリンは今までの魔物とは別格そうだし、やっぱり用意しておいて正解だったな。
俺はまず、一番近くにいたゴブリンに向かって突撃。不意をついて剣を振るい、まずは一体のゴブリンの首を切り落とす。
「……よし」
さすがにここまで派手に動けば、残りの二体には気付かれてしまった。
二体のゴブリンはこちらを見ると――ものすごい殺意を振り撒きながら、こちらにバットを振りながら走ってきた。ヤバい!
「まずっ……、――こうなりゃヤケだッ」
俺は、剣を両手で構えて――こちらも二体のゴブリンの元へと走りだす。
そして、俺の剣は――片方のゴブリンの腹を捉えた。ザクリッ!
剣はゴブリンの腹を一撃、切り開き――そのままゴブリンは倒れ、しゅううっ、と消滅していく。それを俺が見届けた瞬間。
――ボゴッ!
「いってええぇぇぇッ!?」
思いっきり背中をぶん殴られた。犯人はもちろん、最後の一体となったゴブリンだ。さらに追撃を加えようと、俺の頭目掛けてバットを上から振り下ろそうとしている。
そして振り下ろされたバットを――俺は剣でギリギリ受け止める。危なく脳を叩き潰される所だった。冗談抜きで死にかけたぞ。
バットに走る反動によってバランスを崩したゴブリンに、一瞬の隙が見える。その機を逃すまいと、俺はそのゴブリンに向かって剣を振るう。
――スパンッ!
俺の剣は、ゴブリンの腹を横へ切り裂き、ゴブリンはグギィィィ! みたいな悲鳴をあげて倒れ、消えていく。
「……やったか」
背中に痛みが走る。たとえ革製だとしても、鎧を着ていたお陰で致命傷にはならなかった。もし着てなかったら……なんて、考えたくもない。
さてゴブリンを一掃した事だし、と本題の赤い光を見に行く。
「……魔法陣?」
赤い線が地面に描かれ、その線から赤い光が放たれている。
線は円の中に、さらに意味ありげに多彩な線が引かれていて、これを一目見て出てきたのが、『魔法陣』という名前だった。
「何なんだ? これは一体……」
なにをするものなのか、一切分からない。……そんな疑問は、このあと一瞬で解決する事になる。
赤い魔法陣の周りで色々と観察していた俺の目の前に――一体のゴブリンが突然、魔法陣の上へと、どこからともなく現れた。
「うおおおおぉぉぉッ!?」
あまりの驚きに、日本の住宅街ならばこんな夜に騒がしい、と怒られてしまいそうなほどの大声を上げてしまう。
俺は驚き、反射的に目の前のゴブリンに右手の剣を突き刺してしまう。
――グサリ。
剣はゴブリンの心臓部へとまっすぐに突き刺さり、そのままゴブリンはシュウッ、と消えていく。
「……はあ。そういう事か」
つまり、この魔法陣はこのゴブリンが湧き出てくるための物らしい。だから、さっきここへ来た時には周りにゴブリンが集まっていたのか。
……俺はふと、ある事を閃いてしまう。
――ここに立ってあのゴブリンを狩り続けたら、一気にレベルが稼げるんじゃないか?
そうこうしているうちに、二体目のゴブリンが魔法陣から現れる。それに対して俺は、すかさず剣を突き刺し、ゴブリンを倒す。
湧いては倒す。湧いては倒す。湧いては倒し続けた。
「そろそろ見てみるか……」
カバンから石版を取り出し、指を当ててみる。……すると、
《体力》71/100%
《レベル》7
《スキル》味方弱化
《力》41
《守》33
《器用》49
《敏捷》36
……やっぱり上がっていた。しかも、昼間の魔物よりも経験値が心なしか美味しい気がする。それをノーリスクで狩り続けられるって言うんだから、これほど旨い話もない。
次もまた、今と同じようにレベルを上げられるとも限らないし、ここで上げれるだけ上げておくことにしよう。
……まるでゲームの効率プレイみたいだが、強くなって生き延びるためには仕方ない。
現れてはグサリ。現れてはグサリ。――グサリ、グサリ、グサリ、グサリ。
……俺は夜通し、ゴブリンを倒し続けた。
***
そして、気がつくと夜が明けようとしていた。
「朝か……」
段々と空が明るくなっていき……遠くまではっきりと見えるようになった頃。
――シュウウンッ!
力の抜けるような音と共に、目の前の赤い光を放つ魔法陣は、跡形もなく消え去ってしまった。
どうやら、この魔法陣は朝になったら消えてしまうらしい。一晩中狩り続けたのは正解だったのかもしれないな。
「久々にステータスでも見てみるか……どれほど上がっているか楽しみだな」
カバンから石版を取り出し、レベル7の頃に確認したきりだったステータスをチェックしてみる。
《体力》79/100%
《レベル》41
《スキル》味方弱化
《力》143
《守》102
《器用》151
《敏捷》126
レベルが一日で40も上がってしまった。その他の能力値に関しては、軒並み3桁に突入した。
……これが早いのかどうか、やっぱりひとりぼっちの俺には分からないが。それでも、これは一気に成長したと考えて間違いないだろう。夜通し狩り続けたんだ。かなり早いほうであってくれ。
レベルが上がってきたおかげなのか、狩り始めて数時間たった頃には楽になってきたのだが、それでも最低限力を使うので……寝てないのと相まって疲れが溜まってしまった。
「村を目指さないとな……」
俺は残った力をふり絞り、村へと歩みを進める。
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