8.キリハ村

 俺は、少し硬めのベッドの上で目が覚めた。村長の家で色々と話した後に、村唯一の宿へと案内してもらうと一瞬で眠りに落ちてしまったのだった。一日寝ていなかったし、ずっと剣を振り続けていたからだろう。


「……もう夕方か」


 窓から外を見ると、空がオレンジ色に光っている。かなりの時間を眠ってしまっていたらしい。


 体が重たいし気分もあまり優れない。気晴らしに体を動かそうと、俺は宿の外を少し歩いてみることにした。



 ***



「……のどかでいい場所だな。田舎のおばあちゃんの家を思い出す」


 俺のおばあちゃんは街から少し離れた田舎の村に住んでいて、夏休みとかによく遊びにいったっけ。そんな田舎を思い出すような、心の安らぐ場所だ。


 前の世界で住んでいた街や、この世界で最初に来た王国とかは栄えていて、暮らしていくのには不便は無さそうだが、人々の動きが忙しない。


 こうしてゆっくりと時間が流れていくような、そんな場所の方が俺は好きだ。




 村の中を歩いていると、四十代くらいだろうか? 気前の良さそうな雰囲気の、ガタイの良い村の人に話しかけられる。


「おっ、お前は朝から村を騒がせた噂の冒険者だな?」


「冒険者……。そんな大層な物ではないですよ」


「そうかい。んじゃ、旅人とでも呼ばせてもらうぜ。どうだい、この村は」


 どうだい、って言われてもなぁ。


「のどかで良い村だと思いますよ」


 小学生並みの感想しか出てこなかった。こういう時、語彙力の無さが悔やまれるな。……そういえば。


 この村に来てからずっと思っていたことがあり。俺は首を回して村を見渡してみると――その疑問は確信へと変わった。


「そういえば、この村に女性っていないですよね」


 そう。俺はこの村に来てから、女性の姿を誰一人も見ていなかった。


 出迎えられたのも、宿へ行く途中も、宿の中にも。そして今、村の人々が多く行きかっているこの広場にも。全員男性で、女性の姿は一人も見当たらない。


 その問いに対して、男は少し戸惑うような挙動を見せてから、


「……ああ。色々とあってな。この村の問題だから、お客人が首を突っ込む事じゃないさ」


「はあ。色々……ですか」


「んまあ、気にしないでゆっくりしてってくれよ旅人!」


 そういうと、ガタイの良い村の男は、まるで逃げるようにそそくさといなくなってしまった。


 一体、何だったのだろう。



 ***



 そろそろ良い時間かと思い、俺は宿へと戻るが……あの話を聞いてからというもの、一体あれはなんだったのかが気になって、ずっと頭から離れないでいた。


 前に買った魔導書の事を思い出し、気晴らしに読んでみても、やはりあの事が気になって集中ができない。理解もできないのに読んでいても時間の無駄だ。


 それならもう眠ってしまおうかと、ベッドの中に入るが……やはりあの事が気になってしまい、眠れない。


「あの人の反応もどこかヘンだったし。一体何なんだ……?」


 そして、頭の中でその疑問がこびりついたように離れず、ついに。俺は寝ていた宿のベッドから――サッ! と飛び起きると、


「聞きに行ってこよう。村長に」


 あの村人の不自然な反応から、何かが起こっているのは間違いない。あの村長なら、聞けば答えてくれるだろう。


 こんな夜に訪ねるのもアレだが……このままじゃ気になりすぎて夜も眠れなくなってしまう。


 気づけば俺は宿を抜け出し、村で一番大きな建物である村長の家へと向かって走り出していた。

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