拝啓、僕が焦がれていたあなたへ


夢を見た。手紙を書く夢を。

茶色い背景と白い便箋、それが僕の世界の全て。

独りの視界で君への想いを綴っている。


僕の恋人は静かな炎のような人だった。

自分からはあまり話そうとしないが、自分の意思ははっきりと示す。

そこにあるだけで人目を引き、周囲は小さな君の灯火に惹かれていく。


そんな君が疎ましかった。

僕には青く透き通るような夢も、黄色く輝くような華も、赤く燃えるような情熱もない。

近づけばきっと燃え尽きてしまうだろう存在のはずなのに。


それでも近づいてくるなら、取り繕うしかない。

痛いぐらいに強く、黒く塗りつぶす裏面を隠し続ける。

じわりと表にインクが滲んで、汚れて、どうしようもなくなって破り捨てた。




夢を見る。手紙を書く夢を。

純白の紙は君が笑うたびにどんどん汚れていく。

言葉にもならない醜い言葉だ。


君と付き合ってもう三ヶ月が経った。

僕の気も知らないで、彼女はにこやかに接してくる。

近い距離感で、この身をじっくりと炙るように。


いっそのこと君の炎が掻き消えてしまえばいいとさえ思った。

雨に、風に、赤が消えて黒い灰に成り下がればいいと。

でも君はどれだけ小さくなってもまた揺らめいて。


そんな姿に恐怖した。自分はそんな風にいられないから。

醜くなった自分を破り捨てて、なかったことにして。

もう一回新しい自分になってもまたすぐに汚れて。


だから、怖くなって逃げ出した。




仕方ないだろう。

だって彼女は炎で、僕は紙で。

近づけば燃え尽きてしまうに決まっているのに。


ずっとそんなことを思っていた。

ずっと、そんなことは分かっていた。


無理なんだ。君と僕は違うんだ。

だからもう近づかないでくれ。


破れた紙が足元に溜まり、自分の心を埋めていく。

溢れて、溺れて、苦しくて。

あぁ、楽になりたい。


でも。


呑まれるその瞬間、ちろりと暖かい炎が触れた気がした。





──目が覚めた。走馬灯のような夢を見た。


薄暗い部屋の中で独りよがりに散らかしていた自分を拾い上げる。


脱ぎ捨てた白い服、放り投げた茶色い鞄。

最後に手にしたスマホは黒く塗りつぶされていた。


カーテンの隙間から射す光を浴びながら、ベッド脇の充電器を使う。

しばらくして滲んできたのは謝罪の一文。

黒混じりの想いが溢れた。


まだ間に合いますか。

この色を伝えていいですか。

自分を繕うことしか知らない僕でも、その熱に触れていいですか。


夢と憧れを抱くあなたへ。

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お題短編置き場 夏野レイジ @Ragen

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