嘘つき
翌日の昼下がり、家から出て最後を迎える場所を探した。
どこでもいいから、誰もいない場所がいいと思った。
山奥とか、どっかのビルの屋上とか。
けど気づくと私は、あの公園のあの木の前に立っていた。
いつもあなたと過ごした場所。
「なん、で」
そこには、あの頃のように木陰に座る、あなたがいた。
「紫雨こそ」
「私は…」
私は…?
なにをしてるんだろう。
死ぬ場所を探していたのに、誰もいない場所を探していたのに。なんで街中の公園にいるんだろう。
ただ1つ、私がここにいるあるとすれば、それは…
「あなたとよくいた場所だから」
だから少し寄ってから行こうと、そう思っただけだ。
あなたが憎くて仕方ないから、ただちょっと、その気持ちをここに置いてから行こうと思っただけ。
「そっか」
そんなことを考えている私に、変わらない笑顔を向けるあなた。
「俺は、お前に会えると思って。」
こんな人だった。
恥ずかしげもなくこんなことを言う。
彼は徐ろに立ち上がってこちらに歩み寄る。
私の目の前まで来ると立ち止まって、強く手を握った。
「会えた…」
絞り出すように、切実に囁く。
あなたはいつもそうだ。
いつも期待させて、そのくせ自分は遠くに行って…
「…会いたくなかった」
そう言って、爪跡が残るくらいあなたの手を強く握る。
「なんで今更帰ってくるの」
「ごめんね」
「今日で終わるのになんで」
気づいたら泣いていた。
「なんで今まで帰ってきてくれなかったの」
涙がぼろぼろと溢れて止まらない。
「ごめん」
「そばにいるって言ったじゃん」
私は、こんなにあなたに会いたかったんだ。
「嘘つき…もう、ほんとに大っ嫌い」
嘘つきは私なのに。
あんなに会いたいと思ってたのに気持ちに蓋をして、あなたにも自分にも嘘ついてたのは私なのに…
あなたは泣きじゃくる私の頭を優しく撫でてくれる。
そんなとこも、ほんとに嫌い。
「ねぇ紫雨」
「…」
「伝えないといけないことがあるんだ」
「やだ」
やめて。聞きたくない。
もうわかってる。
最後に会いに来てくれたのも優しく撫でてくれるのも、理由があるって。
でも、それを聞いてしまったら…
「ごめん、でも言わなきゃ」
「聞きたくないの!だってもうあとちょっとなんだからもう」
聞いてしまったら
「好き」
直接聞いてしまったら、死にたくなくなる。
「ごめん、好きなんだ。紫雨のことが、もうずっと前から。伝えるのおそくてごめんね」
再び溢れた涙ごと、あなたは私を抱きしめた。
知ってた、あなたが私を好きなこと。
でも私はいつも死にたいと思ってて、そんな私があなたを幸せになんてできるはずないと思ったから見て見ぬふりして。
あなたへの熱い感情を、憎しみだと思い込んで。
でももう、無理だ。
私もあなたが好きだって。
もう無視できない。
でも同じくらい私はあなたが
「大っ嫌いって、言ったでしょ」
それでもきっとあなたならわかる。
「別にいいよ、俺は好き。お前がどれだけ俺の事嫌いでも、あとちょっと、世界が終わるまで絶対離れないから。」
世界が終わるまであと30分。
その間だけでいいから。
私も、幸せでいたい。
「ねぇ」
予定時刻の1分前。
互いに無言を貫いていたけど、その沈黙を破ったのは私だった。
「なに?」
「今まで、ありがとうね」
私の味方でいてくれて。
私の生きる意味でいてくれて。
「俺こそ、ありがとう」
「ねぇ晴斗」
私は彼の頬に手を伸ばす。
「ほんとうに、この世で1番、
だいっきらいよ」
最後くらい、素直でいたかったな…
私たちの唇が微かに触れた瞬間、
一瞬で、私たちが生きたこの世界は、跡形もなく消えてしまった。
残り72時間で終わる世界で君と。 天満月 @ramen1108
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