苦痛

「私、もう死にたいの。」


小学校から根暗で自分の気持ちを伝えるのが苦手な私はずっといじめられていた。

それで随分前に1度だけ、あなたにそう零したことがあった。


あれはたしか、小4の春。

いつもあなたと遊んでいた公園の木陰だった。

並んで木の下に膝をかかえて座っていた。


「なんで?」


曇りの無い眼でそう問いかけるあなた。


「だってみんな私を無視する。机は落書きだらけだし、給食に虫が入ってることだってあるのよ。」


「それって、そんなに辛い?」


「辛いに決まって…」


「でもみんなじゃないよ」


「え?」


「俺は何があってもお前を無視したりしない。お前のそばにいる。だから、生きてよ。俺はまだお前と遊びたいもん」


何をふざけたことを言ってるのかと思った。


それでも確かに、その一言に救われたのを覚えてる。


1人でも、自分の味方がいるのだと。


私の生を望む人間がいるのだと。


その事実があるだけで、まだもう少し生きてみようと思えた。


その瞬間から、私の生きる理由はあなただけだった。




あなたがいなくなってからも続く日々と、終わらないいじめ。

私がそれらに耐えられたのはあなたの言葉のおかげだった。

…いや、あなたの言葉のせいだった。


まるで呪いだ。


あなたはここにはいないのに、その言葉が私をこの世に繋ぎとめた。

殺してくれなかった。


でもこの世界は終わる。


無条件で死ねる。


どこかで生きてるあなたもきっと。




それから2日間、自堕落な日々を過ごした。


学校を休んで家にひきこもり、漫画を読み漁った。両親もそれを咎めなかった。

今まで体裁を気にして学校を休むことは無かったけど、もうどうでもいい。


だって明日の夕方にはみんないなくなるんだから。


こんな世界に未練はない。


家族に最後に何を伝えよう?

最後にどの漫画を読もうかな。


ああそれと、


どこで最後を迎えようか。







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