残り72時間で終わる世界で君と。

天満月

醜いもの

「あ、ごめんなさ」


ぶつかった衝撃で、ドササッと私が持っていた本が床に散らばる。

正確にはぶつかられた、だけど。


「え?何?聞こえなーい!ちゃんと前見て歩けよこのウジ虫」


「てーかちょー臭いんだけど何この匂い?」


落ちた本を足蹴にして笑うのは、私にぶつかったカーストトップのクラスメイト。


「絶対こいつの匂いじゃーん!」


「え〜、いくら湿気好きだからってさぁ、まさか制服生乾きだったり?」


「ありえるwてか毎回思うけどこいつの親のネーミングセンスよすぎ」


「いやまじそれな。なんだっけ、雨宮…ジメ子?」


「違うわまじひでえwあれだよ、雨宮紫雨!」


「うっわぴったりじゃーん」


高らかに笑った後、彼女たちは去っていく。


それを見ている人達は大勢いるはずなのに、誰一人として本を拾うのさえ手伝ってくれない。

仕方ないとは分かってる。

だってきっと怖い。

けど、卑怯で臆病なのには変わりない。


結局1番大事なのは自分だもの。


ああ、なんて醜い世界。

そんな世界を構成する1部のくせにそんなこと思う自分が、1番醜いって分かってるけど。








「速報です。先程、地球に隕石が接近しており、約72時間後に衝突すると予想されると政府が発表しました。」


帰宅後、リビングで1人、何ともなくテレビを見ている時の事だった。


「このことにより地球及び人類は、滅亡すると思われます。」





72時間後に地球が滅亡する。



そのことを理解した瞬間、私は涙が出た。






安堵と、喜びと、感動の涙だった。







ああ、この醜い世界がやっと、終わるのか。


あと3日。


あと3日耐えれば、この世界は終わるのか。


私は消えれるのか。


解放されるのか…


私をウジ虫扱いするあいつらから、それでも真っ当に生きなければならないという義務から、自分自身から、この生活から。



いや、耐えることは無い。

後先考える必要がないなら今ここで_




立ち上がりかけた時、脳裏に彼の顔がよぎる。



そうだ、あなたはいつも、私の邪魔をする。


ここにいないくせに。


私のそばには、いないくせに…。

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