第2話 フットボール?

 さてさて北高校サッカー部に入部が決まった坂逆さかさか緖熟おうれだが、特段高揚感とかそう言った遠足前日の小学生のような気分にはならなかった。いや、なれなかったと言うべきだろうか。


 むしろ早く寝たぐらいだ。


 だからか、目が覚めて時計を見れば、時刻はまだ午前四時半。カーテンを捲って外を見れば、陽が上り始めたとは言え、辺りは薄暗かった。


 特に予定も無いし普段ならこのまま二度寝を決めるところだけど、緖熟はベッドから出ると、欠伸をひとつして身体を伸ばす。それからふと思い立ったように言った。


「ランニングしよ」


 思い立ったが吉日。緖熟の好きな言葉だ。


 寝ている家族(姉)を起こさないようにそおっとトレーニングウェアに着替えて家を出る。


 日本に帰ってきてからはすっかりランニングなんてしなくなったけれど、毎日の通学でなんとなく走るコースには目をつけていた。


 緖熟の家がある住宅街を抜けると川が流れているのだが、その川沿いに走ろうと言う魂胆だ。


 久しぶりのランニングに少し不安があったけれど、一歩二歩と踏み出してしまえば後は自然と身体が動いていた。


 空気は澄み渡り、初夏の緑は心地よかった。


 早朝で回りに人はいない。今この空間を自分だけが知っている、そんな気持ちにまでなった。


 緖熟はワイヤレスイヤホンから流れる曲を口ずさむ。


「もうそうがね ぼうそうする ちょうとっきゅうに とびのおっていま あいに」


「おはよっ、坂逆君! 爽やかな朝だね🎵」


 強靭的なバランス感覚と体幹が無かったら今頃土手を転げ回っていただろう。


「わっ、うわちょ、」


 前に何歩かステップを踏んでようやく体勢を取り戻した。


 いましがた緖熟を驚かせたその女の子は笑いながら言った。


「もう、おおげさなんだから。おはよう坂逆君」


 委員長ちゃんは午前五時にも関わらず、快活に笑った。


「むう、脅かさないでよ……心臓が止まるかと思った……」


「あはは、心臓はそう簡単に止まらないよ」


 ぷにぷにほっぺをつついてくるクラスメイトもランニング中のようで、上から下まですっかりランニングウェアに身を包んでいた。


「知見さんもランニング?」


「うん、習慣でね、毎日走ってるんだ。坂逆君こそ珍しいね」


 こんなに朝早く、確かにその通りだ。


 普段は遅刻してるくせに。


「ま、まあね。今日はその、早起きしたから……」


「ふーん、じゃあ今日は遅刻しないよね」


「……善処します」


「なるほどー、朝マックに行く気だったんだ」


 何でもお見通し、のようだ。


 冷や汗が流れる。


「さ、さあね、そもそも別に朝マック行って遅刻してる訳じゃないし」


「本当に?」


 下から覗き込まれる。


「朝にマックが開いてたなんて今知ったぐらいだもの」


 朝にマックが営業していることも知らない人も結構いるのだ。以前、姉を朝マックに誘ったら驚いていたのを覚えている。


「むむ、嘘くさいぞ」


「元より健康志向の坂逆さんはファーストフードなんて食しません」


「証拠は揃っていますがそれでもしらを切るのですね」


 緖熟がソーセージエッグマフィンとハッシュドポテトを頬張っているところがばっちり納められた写真フォルダを見せ付けられた。


「これ盗撮じゃ……」


「でも君、証拠が無かったら認めないでしょ?」


「そりゃ証拠が無いんだもの」


 探偵に追い詰められて、どこに証拠があるんだって言っちゃうタイプだなとなんとなく思う。


「朝マック、好きなんだ」


 改めて。


「うん。大好き」


 他愛もない話をしながらひとしきりランニングした後、二人がマクドナルド襟立店に行ったのはある種当然のこととも言えるだろう。


「いや、やっぱりおかしいよ。どうして私たちはマクドナルドにいるのよ」


「知見さんも行きたいって言ってたじゃん」


「……それは坂逆君が」

 

 以下回想。


「ソーセージエッグマフィンのセットを二つ、ドリンクはオレンジジュースで」


 注文は任せますと言った手前言いにくいけれど、


「既に何回も注文したことがあるかのようにすらすら注文が出てきてますね」


「いつも同じの頼んでるから」


 もう開き直ったようで、悪びれる様子もない。


 どうやら席まで運んでくれるらしく、二人は二階席に座る。テーブルではなく、窓を向いた席に。緖熟のお気に入りの席だ。

 眼下には通りを走る車。


「この辺、本当に辺鄙だな」


 一台トラックが通って以降、それっきり往来は無い。


「でもここはそこそこ混んでるね」


 一階席は既に満席だった。


「んま、固定客が多いから」


 一度荷物をテーブル席に置いた後、一人のふくよかな男性がこちらに向かってくることに知見は気が付いた。


「デュふぉ、これはこれは坂逆氏、4日ぶりですな」


 出勤前のサラリーマン、と言った風貌の男は、お腹回りはシャツがぱつんぱつんに張ってるし、見るからに脂ぎった肌は、食生活が乱れていることを容易に想像させた。


「あ、デラさん」


「おやおや、今日はお連れが、なるほど、さては布教ですな?」


「まっ、そんなところですね」


「メニューは?」


「ソーセージエッグマフィン、ミニッツメイド」


「に、ビッグブレックファストデラックス……ふぉふぉ」


 顔を見合わせて笑うと、緖熟はVサインを逆にして前に突き出す。それにデラさんも合わせると、


「……M?」


 満足げにデラさんは席に戻っていった。


「世に言う襟立店のビッグ・デラックスさんとはまさにあの人のことです」


「顔見知りなの?」


「そうだよ」


「4日ぶりに会ったんだ」


「うん」


 頷いたところではたと気が付いた。


「4日前って君が遅刻してきた日だよね」


「…………」


「はあ、もうクラスでも君ぐらいなんだよ、そんな理由でしょっちゅう遅刻してるの」


「む、でももう心配ご無用です。今日からは遅刻しないから」


「本当に?」


「うん。心機一転、今日から心を入れ換えます」


 緖熟はぱくりと一口、ソーセージエッグマフィンを食べる。


「それってサッカー部に入部したから?」


「むぐっ……⁉️ 何で知ってるのさ?」


 危うくソーセージエッグマフィンを喉に詰まらせるところだった。


 慌ててミニッツメイドで流し込む。


「むふふ、昨日君、グラウンドで先輩たちと話してたでしょ?」


「そうだけど……でもそれだけで?」


「いいえ、その後ね、積木城つみきじょうさんに聞いたの」


「積木城さんか」


「そ、積木城さんに。でも知らなかったよ。最近噂にはなってたけど坂逆君と積木城さんって仲良かったんだね」


 付き合ってるの? とは聞かなかった。


「いや、一時契約的なもので特に親しい訳ではありません」


「そうなんだ」


「うむ」


 ソーセージエッグマフィンを食べる毎にぱあっと笑顔になる緒熟だけれど、本当に朝マックが好きなんだろう。まだまだ知らないどこだらけな同級生の新しい一面を知った感じ。


「でも珍しいよね、この時期に入部ってさ」


 体験入部期間はとっくに過ぎてるし、入部の意志がある新入生は既に入部しているはず。


「なんかスカウトされちゃって」


「む、スカウトですか。そう言えば栂池つがい君が言ってたんだけど部員が足りないって困ってたみたいだよ」


「じゃあ人数合わせってことね」


 部活の先輩たちがインターハイ予選のメンバーがどうのこうのと言っていたのを思い出した。


「うーん、そうでもないかもしれないよ」


 意味深長に知見ちみは呟く。


   × × ×


 慣れないことはするものじゃない、緒熟は欠伸を堪えて直立。


 長々と続いた説教が終わり、教壇裏の椅子にどさっと座ると背後から声がする。


「早起きするのはいいけどそれで授業中に居眠りしちゃ本末転倒だよ」


 顔を真上に上げてみれば委員長ちゃんが覗き込んできた。


「しょーがないじゃん、朝マック食べると丁度良い感じにお腹が膨れて眠くなっちゃうんだよね……」


「全く、風紀委員として見過ごせないな」


 真正面を見れば、何かと小うるさいクラスメイト。 


 前からは風紀委員、後ろから学級委員。


 前門の虎、後門の狼。


「む、そう言う積木条さんも今朝は遅刻してたじゃない」


 珍しく余鈴が鳴っても登校していなかったのでクラスがちょっとした騒ぎになったのだ。ちなみに緖熟が余鈴前に教室に居たこともちょっと話題になっていたのだが本人は知らないよう。


「私は家の用事でだ。連絡も前もって入れてある。む、マクドナルドって朝もやってるのか?」


 これだからセレブリティは、と緒熟はため息を吐いてアメリカンなジェスチャーをしてみせた。


「マクドナルドさんはね、非常に偉大なお店なので朝も庶民の皆様のために開いているんですんだよ」


「……君、今朝は朝マックのこと知らないって言ってたよね」


 委員長は緒熟の頬を小突く。


「ん、じゃあ朝は君たち二人で朝マックに行ってきたのか?」


「そうだけど」


「仲が良いんだな」


「むむ、のんちゃんだって最近クラスメイトの男の子を連れ回してるって噂になってたよ?」


 (のんちゃん⁉️ ずっと気にしないようにしてたけどこの二人って仲良いのかな……)


「あれはその坂逆君に少し手伝って貰っていたと言うか別に連れ回していた訳では」


「私、クラスメイトの男の子としか言ってないよ?」


「なっ、ぬ、はめたのかちーちゃん⁉️」


 (ちーちゃん! めちゃめちゃ仲良いじゃん)


「中学からの幼なじみだからね」


 緒熟の疑問は解消されたらしい。


「まあ、あれだ。坂逆君、遅刻しなかったのは大きな進歩だ。次は授業中の居眠りを改善していこう」


 こほんと、咳払いを一つ。風紀委員の徳が高いお言葉。


「ぜ、善処します……」


   × × ×


 ホームルームが終わるとクラスメイトの栂池が話し掛けてくる。


「よっす坂逆、お前サッカー部に入ったんだってな。部長から案内するように言われてんだ。よろしくな」


「うん、よろしく」


 部活動の盛んな北高だけあって部活棟は活気に溢れていた。


「あ、練習着とか持ってきてるか?」


「一応」 


 二年前に買ったウェアがまだ入ることに愕然としたことを思い出した。


「そうか、なら問題ないな」


 サッカー部の部室があるプレハブ小屋の二階が更衣室のようで、ロッカーの一つには自分の名前が書かれたネームプレートがあった。


 ロッカーを開けると奥の方に写真が貼ってあるのを見付けた。


「……フィル・ネビル」


「何か言ったか?」


「いや別に」


 男子の着替えだ、直ぐに終わる。


 グラウンドでは既に部員たちがアップを始めていた。


「部長! 連れてきましたよ」


 先日会ったやたらと威圧感のある上級生が肩に手を置いてくる。


「お、ありがとう。んじゃ全員集合!」


 パンパンと手を叩くと全員がウォーミングアップを中断した。


「マネージャー、今は何時だ?」


「4時を少し過ぎたところですですね」


 部長が促すとマネージャーは腕時計を確認する。


 ダボッとしたジャージ、手にはタブレット、だて眼鏡、雰囲気は強豪のマネージャーだ。


「もうそろ監督が来るな」


「先輩、監督が来てから集合させればよかったんじゃです」


「マネージャー、監督が来てから集まるようなチームに規律があると思うのか? 来る時間が分かってんなら少し前に集まるのが規律ある集団だぜ」


「……それ、今考えましたですよね」


「部長の顔を立てるのもマネージャーの仕事だ」


 そんなマネージャーと部長の会話を聞くこと数分、監督が現れた。


「おっ、新入部員って坂逆お前のことだったのか」


 瑠璃るり叶火きょうか、数学科の教師で緒熟と栂池が在籍しているクラスの副担任。


 外にいるだけでうっすらと汗を掻いてしまうこの季節にあっても白衣を着続ける女教師は、見ているだけでこっちが暑くなりそうだ。


 それから、紅い髪。そう言う方面に疎い緒熟でも分かるぐらいのとびきりの美人だけれど、何よりも目立つのはその燃えるように紅い髪だろう。


 入学式で見て以来、緒熟はその紅い髪が好きだった。


「はい」


 短く答える。


「顔見知りだったんですかい?」


「と言うか私のクラスの生徒だよ」


「そりゃいい」

 

 緖熟は部員たちの様子を伺ってみる。頼安たよりやすや栂池など見知った顔の他にも、ド派手な容姿で一年生の間でも有名だった先輩方もちらほらいる。髪を水色に染めたりだとか、ピアスを付けていたりだとか……。


 校則が無いとは聞いていたけどここまで緩いとは。今更ながら驚いてしまう。


 そして当然と言えば当然、水色に嫌悪感はある。


「それじゃあ坂逆後輩、適当に自己紹介してくれや」


「えっ、あ、はい……えっと一年三組の坂逆緖熟です。よろしくお願いします」


「もっと何かあるだろよ。やってるポジションとかさ」


「あ、ポジションは真ん中ならどこでもいけます」


「と言うわけだ。インターハイ予選まで時間もねえしみんな仲良くやってくれ」


 仲良く──運動部だしいくら人数が足りないとは言え、熾烈なレギュラー争いだとかあったりするのかなとか思っていたけど。


 ──メンバーは自分を入れても登録可能最低人数しか居なかった……。


   × × ×


「おい坂逆後輩、監督が話があるってよ」


 初日の練習も終わり、クールダウンも終えて帰り支度をしていると、キャプテンが首を揉んでくる。


「今から、ですか?」


「んま、なんか予定があるんならそっち優先でいいけどよ。時間もおせぇしな」


 運動部にあって意外とホワイトな体質らしい。


「いえ、特に予定はないです。それに俺も監督に話しておきたいことがあるので」


「そか、もしかしたら話題はおんなじかも知れねぇぜ」


 一階の部室はボールやコーン、マーカーと言った備品の置き場を含めてもまだスペースがあった。


 監督は緒熟に椅子を進める。騎院きいんは監督の横に直立不動。


「お前昔クラブチームかどこかでサッカーやってたのか?」


「…………」


 どう答えようか迷う。


 悩む緒熟を見兼ねて騎院が言った。


「監督、坂逆後輩は昔マンチェスターユナイテッドのアカデミーにいたらしいですぜ」


「本当か?」 


 緒熟に視線を向ける。


「……はい」

 ある程度予想はしていたのか、瑠璃は特に驚いたようにも見えなかった。まあヨーロッパの強豪クラブのアンダーカテゴリーでプレーする日本人が珍しくない昨今とあって殊更目新しくもないと言ってしまえばそれまでだが。


「なるほどな、それであんなに上手かったのか。で、どうして日本のこんな辺鄙なとこの高校にいるんだ?」


 当然の疑問だ。


「怪我をして、その、医者に」


 もうフットボールはできないと言われた。


「怪我、治ってないのか」


「病院にはしばらく行ってないので分からないです」


「痛みは?」


「ないです」


「じゃあその医者の見立てが間違ってたのかも知れねえな」


 じっと黙っていた騎院が口を挟む。


「いや、その可能性はないと思いますよ。凄い有名な医者だそうですから」


「うーむ、坂逆後輩。だいたいお前さんの怪我はどう言ったやつなんだ? 今日の練習も左足気にしてたのは分かってたけどよ」


「医者にはいつ爆発するか分からない爆弾って言われました。激しい運動をやらなければ再発することはないけど、もしフットボールを続ければいつかは必ず怪我をするって」


 そしたら。


 ──次に再発したら杖なしじゃ歩けなくなる……。


「……」


 本人は理路整然と話しているが、だからこそこちらが戸惑ってしまう。


「で、坂逆後輩はうちの部活でやる気はあるのか?」


「あります」


「じゃあ監督、問題はなんにもありませんぜ」


「騎院、話を急ぐな。私だっていきなりの話でまだ全然飲み込めてないんだよ」


「つっても監督、もう坂逆後輩をメンバーに入れてリストは提出しちまいましたよ」


「マジ?」


「マジですぜ」


「……いや、人数集めを全てお前に任せていた私の責任か。もういい騎院、今日は帰れ。後は私が話す」


「お言葉に甘えてお先に上がらさせてもらいますわ。また明日」


 騎院が居なくなると何だか部屋が広くなった気がした。


「あんな偏屈な男だが部員からの信頼は厚いんだよ。言われたことは死んでもやりきるなかなか頼れるキャプテンなんだ」

 ため息混じりの言葉はしかし、本音を言っているように思えた。


「坂逆、私と騎院の目標は三冠なんだ」


 三冠──トレブル。その懐かしい響きはしかし、緖熟に疑問を与えた。高校サッカーと言えばインターハイと国立の二つだが……。



「他にもあるんですか?」


「今年はインターハイで優勝すりゃ国際大会に出れることになってるんだよ。プレミアリーグを優勝したところから一チーム、インターハイから一チームって具合にな。だからその国際大会を入れた三つ」緖熟が頷いたのを確認して、瑠璃は話を続ける。


「でもね、見た通りここの部はメンバー集めにも苦労してるような弱小なんだ。去年はたまたま県予選でベスト4まで進んだけど、そのときの主力だった三年生は当然卒業していなくなってるから今年は話題にも上がらない。そんな状態なんだよ」


 と、瑠璃は嘆かわしそうに言うが、彼女の目が静かに燃えているのは誰の目にも明らかだった。


「インターハイ予選の出場すら危ぶまれているそんな状態で、現れたのが坂逆、君なんだ。君のプレーを見たよ。たぶんこの年代なら君は一番サッカーが上手い。スカウトの目に留まれば争奪戦は間違いないだろうな。まあそんな君がもしこのチームに加わってくれるなら当然私と騎院の目標の達成にぐっと近付くよ。ああ、勘違いするなよ。私はまだ君の入部を承諾した訳じゃないんだ。はあ、何が言いたいんだって顔だな。単刀直入に言わせてもらうよ。坂逆、私はこの部の監督と同時に、一人の教師でもあるんだ。だから、教育者として怪我のリスクがあるのなら私は君にプレーをさせられない」


 それで、たとえ優勝を逃しても。


「リスクはつきものですよ」


 緖熟の言い分はしかし、組伏せられる。


「度合いだよ。次怪我をしたら歩けなくなるんだろ?」


「でも……」


 尻すぼみに小さくなる声。やはり緖熟の反論は遮られる。


「だいたい君、歩けなくなっても良いと思ってるんだろ」


 副担任と生徒と言う関係で過ごしてまだ二月と経っていない。いまだって自分の事情を知ったばかりのはずだ。それなのに、緖熟は完全に見透かされていた。


「そんなことは……」


「ないって言い切れるのか?」


「……」


「……はあ。まあいい。向こう見ずな生徒を諭すのは先生の仕事だ。騎院だってあいつも両足折れてようがプレーするような奴だしな。条件がある」


 瑠璃は指を二つ開いて見せる。


「一つは怪我のリスクを最小限にすること。もし君が試合に出れば勝てるとしてもその引き換えに君の将来が犠牲になるのなら私は君を出場させない。これは絶対だ。もし走ることでリスクが上がるのなら走らせないし、ドリブルもさせないし、シュートもさせない。わかった?」


 緖熟は首を縦に振る。


「ん、じゃあ二つ目。病院に行きなさい」

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