第15話 演舞する子

 やっぱりいたレのつく子、伶羅レイラちゃん。


 相手をするってことは戦うってことなんだろうけど、どうなんだろう。


 鉄摩テツマさんは戦える子はいないって言ってたけど、嘘をついていた可能性もあるわね。


 伶羅ちゃんは実戦向きじゃない格好だけど、戦えないわけじゃない。


 素肌の上に肘まで隠れる手袋、アームロングをつけているし、パンチをしても大丈夫だと思う。


「そこをどいて。あの子が持っている球体を渡してもらうわ」


 聖名夜みなよちゃんが伶羅ちゃんに言った。


「申し訳ありません。聖名夜様。今しばらく、私にお付き合いくださいませ」


 意志の強い声に動じることなく、上品に答える伶羅ちゃん。


「なら、あなたを倒して行かせてもらうわ」


 左手にステッキを持ちながら構える聖名夜ちゃん。


 すると伶羅ちゃんは首を横に振った。


「残念ながら私、雷羅ライラのように直接、戦うすべを持ち合わせていません。ですから、私の演舞に酔いしれるか否かで勝敗を決していただければと思います」


「演舞?」


「はい。私、伶の字がつくとおり音楽に関する能力を持ち合わせていますの。その音楽と舞いで私を退ければ聖名夜様の勝ちでございます」


 え、音楽と舞いってどういうことだろう。


 それを見て聖名夜ちゃんが、ブラボー、とか言って感動したら伶羅ちゃんの勝ちってこと?


「つまり、あなたの放つ魔法を私が打ち破ればいいということね」


「さようでございます」


 にっこりと笑顔で答える伶羅ちゃん。


 あ、そういうこと。


 演奏者とお客さんのようなかんじをイメージしてたわ。


「でも、わざわざそれに付き合う理由もないわね」


 言いながら、聖名夜ちゃんは右手から手品みたいにカードを出して投げた。


 あらかじめ書いておいたやつね。


 カードは光を発し、投げつけられた伶羅ちゃんの周囲から大量の水を現した。


 その水は円筒形になると、そのまま凍結。


 伶羅ちゃんを閉じ込めた。


 凍結といっても中までがっちりではなく、必要最小限。


 伶羅ちゃんが動ける範囲を残している。


 無力化すればいいわけだし、命を脅かすこともないからね。


「さすがです、聖名夜様」


 そう言って伶羅ちゃんは微笑んだ。


 閉じ込められているのに余裕ね。


 でも、この氷は対魔法の効果も付加されているはずだから、そう簡単には壊せないよ。


「それでは私も、お見せしますわ」


 すると伶羅ちゃんの金髪に混じって光の髪が伸びた。


 伸びた髪の毛が床につくのと同時に、床から壁、壁から天井と、順を追って白くなった。


 もともと白かったけど、これはかどなんかの境い目が見えなくなるくらい強烈なもの。


 機材なんかもあったはずだけど、消えたようなかんじ。


 だから、広さが分からない白だけの異空間に放り込まれたように思う。


「では聖名夜様、私の演舞、お楽しみください」


 伶羅ちゃんは軽く頭を下げると、床に吸い込まれるかたちで姿を消した。


「……」


 魔力で存在を確認する聖名夜ちゃん。


 幻術というわけじゃなく、本当に姿を消したみたいね。


 氷の魔法を解くと、聖名夜ちゃんは改めて身構えた。


 こうなると、何をしてくるか全く予想がつかない。


 全神経を集中させ全方位に警戒。


 ……。


 ……。


 ……。


 球体の私だけど、生唾をのむように緊張する。


 ──!


 人。


 右側の奥から人が……、現れた?


 伶羅ちゃんと同じ格好をした女の子が八人、整列している。


 歳は私たちと変わらないみたいだし、顔こそ違うけど身長も体型もほぼ一緒。


 それは分かる。


 だけど、


 元の空間からはあり得ない距離だし、魔法なんだろうけど、空間が拡張しているからなのか、遠近法でそう見えるのか判別がつかない。


 近づいて確かめるわけにもいかないわね。


 この子たち、伶羅ちゃんと違って左腰には鞘に納まったサーベルがある。


 ピ──────、ピ!


 !?


 突然、ホイッスルが鳴ったかと思うと、ドラムを叩く音がした。


 マーチングなんかで聞くような軽快な音。


 だけど、演奏者が見当たらない。


 一人でドラムを叩く音だけが響いてる。


 そのドラムに合わせて、サーベルを抜き、きれいに揃えて振っている。


 これって軍人さんが式典なんかでやるやつよね。


 テレビで見たことがある。


 そのときは確か、ライフルの先にナイフがついた、銃剣でやってた気がするけど、サーベルの場合もあるのかな?


 と、右から順にサーベルを回転させながら真上に投げた。


 あれをキャッチするの?


 刃がないにしてもつかみ損ねれば大ケガよ。


 ?


 回転しながら落ちてくるサーベルが茶色くなった。


 じゃなくて、銃剣になってる。


 綺麗にキャッチして、華麗に回転させ構えていく。


 銃口が、こっちを向いて、る!


 バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン! バン!


 次々と聞こえる銃声。


 とっさに聖名夜ちゃんは右横へ跳んで床を一回転。


 回避した。


 でも、弾丸が空を切る音や気配はなかった。


 空砲だったみたいって……。


 あれ、床に血がある。


 聖名夜ちゃん!


 そんな、右の肩から血が出てる。


 出てるけど


「……」


 そうきたか、みたいな顔の聖名夜ちゃん。


 回復の魔法を使おうとしない。


 もしかして服だけじゃなく、身体も傷ついてない?


 でも、血は出てたよね。


 どういうことだろう……。


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