第13話 代わりの子、そして

 新しく現れたニニちゃんそっくりの女の子。


 しかも鉄摩テツマさん、その子をニニって呼んでた。


 いや、ニニちゃんはそこに倒れている子でしょう。


「ではニニ、その古いやつから球体あれを取り出してくれ」


「分かりました、父様」


 微笑んで言うと、その子は鉄摩さんの指示どおり、ニニちゃんの胸元を探って球体を取り出した。


「はい、父様」


「ご苦労様」


 お使いができて褒めてるみたいになってるけど──。


「おい、待てよ」


 ほむらちゃんが言った。


「そこに倒れているのがニニじゃねえのか」


「ああ、確かに。ニニだ」


「なに?」


「いちいち名前をつけるのが面倒なので、私の助手は全てニニと呼んでいる。身長、容姿、体型も分かりやすく均一にしてね」


「分かりやすくだと?」


「そうとも。頭脳面のサポートと使用実験が中心だからね。小型で製造しやすく、よしよしと頭を撫でてあげられるくらいがちょうどいい」


 それってつまり……。


「使い捨てできる代替可能な量産物。ニニという名前も文字の見た目と語感が気に入ったからにすぎない。だから最初は、ミミというのも考えたんだが、耳や猫を連想してしまうからやめたよ」


 そう言って微笑む鉄摩さん。


 それじゃ、身体が新しくなっただけで、ニニちゃんの意識や魂はその子にあるってことなのかな。


「ただ、製造魂魄せいぞうこんぱくは一つの身体に固定される。そのため、この新しいニニには別の魂魄が使われている。つまり、身体が激しく損壊したり、魔力が尽きれば、造られた魂魄は維持できず崩壊。普通に死というわけだ」


 え?


「だからこうして、記憶を引き継がせ研究を続ける一方、余計な情報は削除というわけさ」


 言いながら、鉄摩さんは右手の人差し指を振ると、倒れているニニちゃんからその子、頭から頭へ光の粒が飛んでいった。


 ということは、その粒が記憶。


 ニニちゃんのところで弾ける粒もあったから、それが削除したものなんだ。


「ずいぶん、ベラベラとしゃべるじゃねえか。秘密なんだろう?」


 睨みつけるようにして言うほむらちゃん。


「なーに、構わんよ。似たようなことをしている者はいるし、具体的な製造方法に触れているわけではないからね」


「はい、父様」


「では、ニニ。第二ラウンドを始めようか。新しい制御装置をつけているね?」


「はい、父様」


「うんうん、いい子だね」


「さっき暴走させといて、まだやる気か」


「もちろん。君が倒れるまで、戦闘は続く。ニニはまだたくさんあるし、やるごとにデータが蓄積され分析や装置の開発が進む。ああ、この場所は気にすることはない。廃棄予定の場所だ。壊れ具合からもデータを取れるからね。存分に暴れてくれ」


 実験の再開を楽しみにしている感じで話す鉄摩さん。


 ……。


 ……。


 ……。


 なによ……、それ。

 

 ニニちゃん、苦しんでたじゃない。


 泣いて、叫んで、助けを求めてたじゃない。


 その子にも同じようなことをさせようと言うの?


 心は痛まないの?


 あのとき、ニニちゃんが何度も顔を向けてたのは何でだと思う?


 止めてほしかったからよ。


 使い捨てできる代替可能な量産物?


 たくさんある?


 ふざけないで!


 ニニちゃんは、ニニちゃん。


 他の誰でもないでしょう。


 父さんなら、親なら、子どもを守らなきゃ。


 ──私は父さんを知らない。


 私が産まれる前に去ったから。


 けどそれは見捨てたんじゃない。


 母さんと私を巻き込まないために去ったんだ。


 玄なんて力を得たために組織に使われ、自由のために抜け出したみたいだけど、それは人並みの幸せを望んでいたから。


 母さんと出会い、お祖父ちゃんの会社で働いていたことからも分かる。


 母さんは私を産んでから一人で育ててくれた。


 そりゃあ、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの助力もあっただろうけど、私のために一生懸命に仕事をしていた。


 私と一緒に暮らすために。


 いつか父さんが帰ってくると信じて。


 私と状況が違うことは分かる。


 分かるけど、データのために見殺しにするような真似は絶対におかしい!


 許さない……。


 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。


 許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。


 絶対に、許さない!


「落ち着け、優子────────────────────────────!」


 は!?


 あ、あれ、私……。


 ……。


 ……。


 鉄摩さん、ニニちゃん、新しい子がいない。


 て、広場!


 マグマが噴出したみたいに、壁や床が溶けて赤くなってる。


 災害発生直後よ、これ。


 それも、


「はは……、ようやく気がついたか……」


 両膝をつき、両手で球体を握るほむらちゃん。


 その手が真っ赤に腫れている!


 え……。


 そんな……。


 まさか、私……。


 チカラが暴走してた?


 ああ……。


 ニニちゃんがあまりにも可哀そうで、鉄摩さんが許せなくて、カッとなった気持ちに球体が反応したんだ。


 鉄摩さんとかは逃げたけど、ほむらちゃんは暴走を止めようとして、を使ったみたい。


 それは神様も焼き払うくらい強烈なやつ。


 そんな炎だから当然、使用者も容赦なく燃やすから加減の難しい、奥の手のようにしていたもの。


 それをほむらちゃんは……。


「気にするなよ、優子」


 え?


「お前の友達ダチになったときから、覚悟はしてた」


 でも……。


「さっきのだって、ニニが可哀そうで、頭にきたんだろう。分かってる」


 ……。


「力があるからって、それを汚れた欲望に使わず、弱い奴のためや理不尽に立ち向かうために使うお前を、俺は誇りに思う」


 ……。


「お前は太陽だ。闇を打ち払う光だ。涙や後悔は似合わねえ。それに一人じゃねえ。俺や聖名夜みなよがいる。友達がいること忘れんなよ、優子」


 ……。


 ……。


 ……。


 ほむらちゃん……。


 ありがとう……。

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