第8話 忍びの子

「──ここが戦う場所よ」


 瞬間移動して別の場所に着くと、瑠羅ルラちゃんが言った。


 縦横の広さはたぶん、狼羅ロウラちゃんと戦った場所と変わりない思う。


 ただ、向こうは三階まで吹き抜けで、こっちは二階部分までだから、その分、狭いかな。


 壁や床、天井もコンクリート製だと思うんだけど、なんかジムっていうか汗臭さを感じる。


 トレーニング場所なのかもしれない。


 向こうはがらんとしていたのに対し、こっちは室内全体に等間隔で四角い柱が立っている。


 一つの辺が一・五メートルくらいある木製の柱で、一階天井あたりで止まっているから機能はしていない。


 そのかわり、上に乗っかることはできそう。


 合計すると九本。


 戦略的な戦い方が要求されるわね。


「これ、聖名夜みなよのよね。返すわ」


 壁に立てかけてあった聖名夜ちゃんのステッキを見つけ、瑠羅ちゃんは手渡した。


「ありがとう」


 素直に受け取る聖名夜ちゃん。


 返してくれたのはいいけど、こんな広いところに保管していたのかな。


「あの子、直接渡せないからここに置いたようね」


 呟くように言う瑠羅ちゃん。


 あの子?


「それで、戦うのはいいけど、誰が戦うの。あなた?」


「わたしじゃないわ。雷羅ライラよ」


「雷羅?」


「あの子、忍者だから戦いにならないと出てこないわ」


 忍者?


 それじゃあ、手裏剣とか忍法とか使うのかな。


「その関係もあって、戦うときはここも真っ暗になるけどいいわよね?」


 そう言って瑠羅ちゃんは確認するけど、了承前提の聞き方だ。


 異論は認めない雰囲気もあるし。


「……、いいわ」


 仕方ないというか、そう答えるしかない聖名夜ちゃん。


 闇夜でも戦えるから大丈夫だと思うけど。


「じゃあ、始めるわよ。わたしはここで補強の結界を張るから、雷羅と思いっきり戦うといいわ」


 すると瑠羅ちゃん、おなじみになった合掌のポーズをして結界を展開。


 ツインテールの先から白い光の髪が伸びてる。


 室内も明かりが消えて真っ暗になった。


 すべてが闇に包まれて、柱はもちろん壁なんかの境い目も見えない。


 空間にあって平面にいる感じ。


 そんななか、瑠羅ちゃんの髪だけ鈍く光って、存在感を出してる。


 あのポーズをしたまま動かないでいると、不気味で恐いわね。


 目印にはなるかもしれないけど。


 聖名夜ちゃんは瑠羅ちゃんから離れるように奥へ向かった。


 それも背中を壁に向けた、ちょっと不自然な歩き方で。


 これは瑠羅ちゃんがいる光のある所へいると、姿が見えて的になってしまうからだし、背後からの不意打ち対策でそうしているんだ。


 ……。


 ……。


 ここでだいたい真ん中あたりかな。


 そう言えば利羅リラちゃんも、狼羅ロウラちゃんも白い光の髪を出して戦っていたのよね。


 雷羅ちゃん、て言っていいのか分からないけど、その子の髪もそうなるのかな?


 でも真っ暗な状態で戦うくらいだから、さすがにそれは──。


 いた。


 一番奥の角にある柱の上に、瑠羅ちゃんと同じ白い光が見える。


 三人に比べるとずっと短くて、延長されているのは二十センチ程度。


 イメージすると、基本ショートでそこから右側半分が伸びたかんじっぽいから、アシンメトリーの髪型になっていると思う。


 それはいいとして、これはもう狙ってくださいと言っているようなもの。


 しめしめ今のうちに魔法を、ていうことはしないわね聖名夜ちゃん。


 気づいているけど、手を出さないでそのまま音を立てずに歩みを進めている。


 これはむしろ罠と考えた方がいい。


 それに距離があるから、ここから魔法を放っても対処されてしまう。


 近づいていって柱を死角とした有効な場所から仕掛ける気ね。


 ──と次の瞬間。


「!……」


 聖名夜ちゃんの自動防御魔法が発動。


 横から飛んできた三つのものを凍らせ、無力化した。


 床に落ちて砕けるこれは……、魔力を硬化させた手裏剣?


 は……。


 まだだ。


 上から何かが迫ってくる!


 ガギン!!


 横にしたステッキを突き上げ、聖名夜ちゃんはそれを受け止めた。


 そんなに長くはないけど、刃があって細く幅がない硬い物。


 刀!


 聖名夜ちゃん、振り下ろしの斬撃を受けたんだ。


 ステッキに魔力を通しているから、少々のことで切られることはないけど、聖名夜ちゃんの腕力は普通の女の子。


 瞬間的に魔力の防御で防げたとしても、その後まで続かない。


 徐々に押し負けていく……。


「bind !」


 聖名夜ちゃんの声と同時に、水でできた幾つものロープが刺客の身体に巻きついて凍結。


 拘束した。


「!」


 すぐさま聖名夜ちゃんは右手にステッキを持って勢いよく刺客を突いた。


 身体に触れて、より確実に魔法が効くようにしたのね。


 そして、いま使った魔法は麻痺。


 拘束だと魔法を維持しなくちゃならないけど、麻痺で一度眠らせれば、しばらく放っておける。


 だけど、刺客は麻痺の魔法を受けると、揺らめく影のようになって、そのまま消えた。


「……、……、……」


 声を出さないようにしつつ、呼吸を整える聖名夜ちゃん。


 雷羅ちゃんは動いた様子もなく、同じところにいる。


 でも、あの攻撃はまさに忍者のやり方だった。


 もしかして、向こうにいるのが偽物で、本物がいま襲ってきたのかな。


 そもそも一人で戦うとは言ってなかったし、そういう事かも。


 いやいや、待って。


 雷羅ちゃんが忍者で、さっきの刺客は実体を失って消えた。


 ということは、あの刺客は雷羅ちゃんの術で現れた分身かもしれない。

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