第7話 次へ

「俺の勝ちだ」


 目を閉じ、倒れて動かない狼羅ロウラちゃんを前に、ほむらちゃんは瑠羅ルラちゃんを見やって言った。


「そのようね」


 合掌のポーズを解く瑠羅ちゃん。


 結界が消えると、狼羅ちゃんのところへ歩み寄った。


「あんたもやられるなんてね」


 言いながら右手で身体を触るのと同時に、狼羅ちゃんの姿は消えた。


「主なダメージは気力の方だろうけど、回復には時間がかかるわね」


 利羅リラちゃんのときもそうだけど、転移させたんだろうと分かっていても心配になる。


 うん?


 利羅、瑠羅、狼羅……。


 ラ行ね。


 ということは、ラとかレとかの子もいるのかな。


「──さあ、約束どおり、球体をもっているやつのところへ行かせてもらおうか」


「分かったわ」


 そう言うと瑠羅ちゃん、左手で指をパチンと鳴らすと、コンクリートの壁から扉が現れた。


 縦二メートル、横一・五メートルくらいの大きさをした鉄製の扉で、新品みたいにすごくきれい。


 だから、いま取ってつけたんだなって思う。


「そこから、通路を抜ければニニにたどり着くはずよ。ただ、ニニがいつまでも同じところにいるとは限らないからね」


「ああ、だろうな」


 知ってる、みたいに答えるほむらちゃん。


 それもそのはず、ニニちゃんの持つ球体の反応はいま、聖名夜みなよちゃんのところにある。


 聖名夜ちゃんが目を覚ましたからかもしれないけど、違う目的でいるのかもしれない。


「じゃあ、行くぜ」


 言いながら、ほむらちゃんは扉へ向かって歩き出した。


「ええ、どうぞ。わたしは跳ぶから」


 そう答えると、瑠羅ちゃんは瞬間移動。


 さっさと姿を消した。


 なんか素っ気ないわね。


「さて、いま行くからな。無事でいろよ、聖名夜」


 ほむらちゃんは呟きながら、ドアノブに手をかけた。


 聖名夜ちゃんは無事だったよ、ほむらちゃん。


 ただ、さっきとは状況が変わったみたい。


 様子を見てくるね。




 ──私は意識を聖名夜ちゃんの球体へと移動させた。




 場所は変わってないわね。


 あ、聖名夜ちゃん、気がついて立ち上がってる。


 そして、その前には鉄摩テツマさんとニニちゃん、瑠羅ちゃんが居た。


 瑠羅ちゃん、瞬間移動してここにきたのね。


 あの緑色した半透明の壁を境に対面している。


 ということは、ほむらちゃんのときみたいに、球体について聞き出そうとしているのかな。


 でも、話をするだけなら、鉄摩さんとニニちゃんだけでよさそうだけど。


 ──話は続いている。


 聞いてみよう。


「あっちの持ち主は友達を助けるためと言っていたが、君もそうなのかな?」


 紳士的に訊く鉄摩さん。


「だとしたらどうなのかしら」


 少し、冷たい感じで答える聖名夜ちゃん。


 警戒しているのが分かる。


「お友達には申し訳ないが、はっきり言って球体これはほしい。いまニニが持っている一個だけでもね」


「それはできないわ」


「助けると言ってもいろいろある。例えば、球体を身体に入れて核にするとか、力を与えるとか。反応がある五個すべてを集めないといけないものなのかな?」


「すべて必要ね」


 鉄摩さん、何とか一個だけでも手に入れておきたいみたいね。


 だけど、あれは私と魔女が一つになって分かれたもの。


 全部ないと元には戻らない。


 でも仮に、四個で戻ろうとしたらどうなるんだろう。


 ちょっと興味が……、いや、ダメダメ。


「ふむ。では、あっちの持ち主と君はお友達なのかな?」


 試すようにして見るこの表情、見覚えがある。


 ほむらちゃんのことを言っているけど、返答次第では対応が変わってくるかもしれない……。


「この状況では分からいわ」


 すると聖名夜ちゃん、あくまでクールに答えた。


「ほ、ほーほほ。確かにそうだ!」


 愉快痛快といった様子で、鉄摩さんは笑って言った。


「いま持っている子が、君の考えている子と同じとは限らない。何者かが奪うことだってあり得るし、たまたま助ける目的が一緒だったという可能性も否定できないからね」


 実際、私は意識を移動しているから、ほむらちゃん聖名夜ちゃん、二人の親友がここにいるのは分かっているけど、ほむらちゃんも聖名夜ちゃんもお互いの存在を確認できていない。


 信じて疑っていないけど、それを顔に出さず、冷静に客観的に、聖名夜ちゃんは答えたんだ。


「だが、いずれにしろニニの持つ球体を渡すつもりはない。そこで提案する。私のと戦ってみないかね?」


「戦う?」


「君の持つ魔力はかなりのレベルにあるもの。戦闘力が高いことが分かる」


「……」


「戦って、君が勝てばニニへの道を繋ごう。ただし、私の娘が勝ったら君の球体はいただく。どうかな?」


「道を繋ぐって、渡してはくれないのね」


「ふふ、鋭い。今は防壁をはさんで話しているが、それなしで会えるようにしてやろうと言うことさ。戦わないなら君にもう一度眠ってもらって、霊体ごと球体を奪うが、それでいいかい?」


 この言い回しはほむらちゃんのときと一緒だ。


 ほむらちゃんも気づいてはいただろうけど、球体を渡す気がないから、あえて追及しなかったんだと思う。


 そもそも変に遠回しな言い方よね。


 嘘でも勝ったら渡すと答えておけばいいようなものだけど。


 何か思惑があるんだろう。


 気をつけてね聖名夜ちゃん。


「分かったわ」


「よろしい。では瑠羅」


「はい、父様」


「この子が戦いの場へ案内する」


「わたしは瑠羅。あなたは?」


「聖名夜」


「じゃあ、聖名夜。早速行くわよ」


 そう言うと瑠羅ちゃん、瞬間移動して聖名夜ちゃんの横に並ぶと、その手を掴んで再び瞬間移動した。

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