第3話 炎と刀、そして

 ほむらちゃんは左手の人差し指と中指の二指にしを立て、構え直した。


「いくぜ!」


 すると、利羅リラちゃんを中心に円を描いて、路面から立ち上がるような三つの炎が現れた。


 高さは四メートルくらいで、円は半径三、二、一メートルほどの大きさで展開。


 等間隔のまま円は赤く揺らめきながら半径を縮めて、利羅ちゃんに迫る。


 様子は見えないけど、熱い炎に囲まれて汗が噴き出していると思う。


 このままだと利羅ちゃんは焼き尽くされてしまう形だけど、それはない。


 ほむらちゃんは、疲れさせるとか意識を奪うとか、そういったもので無力化しようとしている。


 命を狙うものなら、もっと攻撃力のある技を使うはずだから。


「むう、機幻刀きげんとう!」


 利羅ちゃんが言うと、魔力が大きく揺らいだ。


 セリフから考えて、あの刀に何かしたみたい。


大斬撃だいざんげき!」


 そう言うと、利羅ちゃんは斜めに回転しながら剣を振って飛び込み、三つある炎の壁を突破した。


 刀身を芯にした、幅が五十センチ、長さが二メートルはある魔力で作られた刃で、大きな風穴を開けて脱出したんだ。


 空中で威力と回転を調整し、ダンッと力強く着地する利羅ちゃん。


 同時に魔力で拡張された部分は消えて、元の刀身になった。


 突破できて、ほっとひと安心しているのかもしれないけど、そこに親友が待ち構えている。


「!?」


 ほむらちゃんは突き出した左手で利羅ちゃんの口をふさぐと、そのまま体内へ勢いよく炎を放った。


「!」


 溢れ出るみたいに、利羅ちゃんの内側から外へ炎が噴き上がる。


 そばにいる、ほむらちゃんは炎を浴びる格好だけど、平然としてる。


 仕掛けている本人には影響がないとかではなく、いまやっているのは熱を目的としたものじゃないから。


 前に見たことがある。


 これは魔力とか精気とか、身体の内部を流れるエネルギーの経路を断ち、無力化しているんだ。


 名前は確か、餓鬼がき払い。


 体内に巣食う悪いものを焼き払うのから始まって、この形に応用したみたい。


 そして、頃合いをみて手を離すほむらちゃん。


「お……、お見事……」


 ほむらちゃんを称えて、利羅ちゃんは右の方へ倒れた。


 喉を焼いたわけじゃないから声は出る。


 ポニーテールの先から伸びていた白い光も消えて、そのまま瞳も閉じてるから眠っている感じになった。


 気を失ったみたいね。


「次は、お前が相手か?」


 瑠羅ルラちゃんを見やって、ほむらちゃんは一旦いったん、全ての炎を消した。


「私は戦わないわ。専門外だし」


 そう答えると、瑠羅ちゃんはずっとやっていた合掌のポーズを解いた。


 同時に、張られていた結界が消え、元の夜が現れた。


 む。


 ツインテールから伸びる白い光も消えたわね。


 やっぱり、能力発動や戦闘状態と関係があるみたい。


 まあ、だとしてどんな効果があるのか分からないけど。


「それに、父様から連絡があったわ。聞きたいことがあるから、ほむらを研究所に迎え入れなさいって」


「研究所?」


「そうよ。私たちを造ったり、機体を開発している所。別の空間にあるんだけど」


 すると瑠羅ちゃん、倒れている利羅ちゃんのそばへやってきた。


「まさか、あんたがやられるなんてね」


 しゃがみ込むと右手で身体に触れた。


 その瞬間、利羅ちゃんの身体は刀と一緒に消えた。


 えっと、それは……。


「治療室へ送っただけよ」


 始末したんじゃないから、みたいな顔で言う瑠羅ちゃん。


 だろうなとは思っていたけど、動作は一緒だから、説明がないとドキッとする。


「で、来るんでしょう? ほむら」


 立ち上がり、瑠羅ちゃんは来る前提で聞いてくる。


 別空間にあるということは恐らく、残りの一個もそこにあると思う。


 調べているって言ってたし、調べるなら、研究所よね。


 罠の可能性もあるけど、ヘタに動いて球体を移動されるのも困る。


 そうなると答えは一つになる。


「ああ、いいぜ。俺も聞きたいことがあるからな」


 ひとまず了承するしかない。


「じゃあ、さっそく行くわよ」


 確認すると、瑠羅ちゃんは人差し指を合わせて両手を握り、印を結ぶようなポーズをした。


 密教?


 さっきも合掌のポーズをしていたし、そういう事なのかな。


 でも、神様の力を使っているわけじゃなく、魔力で結界を張っていたから、あくまで儀式的動作を踏まえて魔法を使っているんだろうと思う。


 ──て、え?


 え? え? え?


 ちょっと待って、重大なことに気づいた。


 それは瑠羅ちゃんに対してではなくて……。


「……」


 ほむらちゃんも表情には出さないけど、気づいている。


 間違いない。


 別空間にある球体の反応は残りの一個だけだったんだけど、


 球体は全部で五個。


 そのうち二個はほむらちゃん、もう二個を聖名夜みなよちゃんが持っていて、残りの一個がここにあるのよね。


 それが三個ということは、あのあと聖名夜ちゃんに何かあったんだ。


「転移」


 瑠羅ちゃんはそれに気づいた様子もなく呟くと、ほむらちゃんも光に包まれ、二人揃って、その場から瞬間移動。


 話を聞くというていだし、いますぐバトルにはならないと思う。


 仮にそうなったとしても、ほむらちゃんなら大丈夫。


 その間、私は聖名夜ちゃんのところへ行って確かめる。


 聖名夜ちゃん、無事でいて。

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