第4話 ニニという子

 ──私の意識はほむらちゃんの持つ球体から、聖名夜みなよちゃんの持つ球体へ移動する。


 移動……、できないとまずい。


 できないということは、聖名夜ちゃんが球体を持っていないということだから。


 お願い。


 聖名夜ちゃんのところへ届いて。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 ここは……。


 部屋?


 広さは十畳くらいかな。


 内装はちょっと近未来的。


 強化プラスチックみたいな白い壁が三方にあり、正面は緑色をした半透明の壁で通路が見える。


 なんか、宇宙船の中にいるよう。


 扉がないわね。


 どうやって出入りするのかな。


 て、聖名夜ちゃん!


 は、眠っている?


 いや気絶しているのかな。


 壁側にあるベッドで横になってる。


 身体は……、魔力や精気が正常に流れている。


 ケガをしたとか、そういうのはないみたいね。


 ほっ。


 とりあえず大丈夫かな。


 球体も聖名夜ちゃんが二個持っている。


 おそらく霊体に収納しているから、取り出すことができずに、そのまま連れ去ったのね。


 とはいえ、聖名夜ちゃんもほむらちゃんに負けないくらいの手練れ。


 その聖名夜ちゃんを気絶させたんだから、相手はかなりの実力者だと思う。


 まあ、一瞬の隙をつかれた私が言うことじゃないのかもしれないけど。


 部屋はいちおうトイレがあるけど、他には何もない。


 あ、聖名夜ちゃんのステッキもないわね。


 当然といえば当然か。


 とりあえず、いますぐ聖名夜ちゃんがどうこうされるようなことはなさそう。


 何かしようとするなら、手足が自由な形で閉じ込めておかないと思うから。


 それじゃ聖名夜ちゃん、私はほむらちゃんのところへいくよ。


 球体の反応がはっきりしているから、この空間の中、建物? の中にいるのは間違いない。


 いざとなれば、ほむらちゃんが助けてくれる。


 ほむらちゃんも心配しているだろうけど、いまの私は伝えることができない。


 でもね、大丈夫。


 ほむらちゃんなら分かってくれる。


 少しの間、待っててね。




 ──そして私の意識は、聖名夜ちゃんの球体から、ほむらちゃんの球体へ。




 むむ。


 ほむらちゃんと、瑠羅ルラちゃんがいる。


 けっこう広い場所。


 バスケのコートなら三面はあるんじゃないかな。


 床も壁も天井もコンクリート製みたいだし、吹き抜けで三階分はありそうなほど高い。


 四角い作りだから、倉庫のイメージがある。


 ただ、照明がないのに明るく、扉のようなものもない。


 空間魔法の応用なのかな?


「──いま、父様がお話になるわ」


 瑠羅ちゃんがそう言うと、その横に男の人が現れた。


 身長は百六十センチくらいでせ型。


 年は、五十代半ばほどに見える。


 銀縁のメガネをかけて白衣を着ているから、いかにも科学者ってかんじ。


 ただこれ、立体映像よね。


 実体が感じられない。


「私は工堂鉄摩クドウテツマ。個人ながら魔導工学者として日々、研究をしている」


 偉い学者さんのような話し方で挨拶する鉄摩さん。


 科学者じゃなくて魔導工学者。


 魔導工学ってことは魔法を工業的に扱うものだから、この人が瑠羅ちゃんとかを造ったで間違いないんだろう。


 瑠羅ちゃんも利羅リラちゃんも、人間と区別つかないけど。


 そして、個人ということは組織に属していないってこと。


 規則や監視がなく自由であることだ。


 悪いことでもなんでも、自分の好き放題にできる。


「事情は聞いている。友達を助けたいんだとか」


「ああ……」


 素っ気なく答えるほむらちゃん。


「そのために必要なものが、球体これなのかな?」


 すると、鉄摩さんの隣りにもう一人、女の子が現れた。


 同じく立体映像ね。


 十歳くらいに見える、黒髪ロングに白衣を着た助手ってかんじの子。


 そして、その子が右手に持っているのは間違いなく、私と魔女の欠片、球体だ。


 ──はっきり言うと、それ自体は驚かない。


 だって、気配でその球体が今どこにあるか分かるから。


 この子が持っている球体は、ここから直線で百メートルくらいのところにあるし、聖名夜ちゃんのは二百メートルくらいのところにある。


 だから、この子が持っているんだ、くらいのもの。


「──そうだ」


 ほむらちゃんは深く追求されないように、言葉少なく答える。


「ふむ。このはニニ。私の手伝いをしてもらっている。おとといだったかに夜の街を散歩していたら偶然、これを見つけてね。力を感じるというんだ」


「はい。わたしが手にしたとたん、全ての能力が向上し魔力の補填を確認しました。また、少女限定ですが、様々な思いも感じ取ることができます」


 その子、ニニちゃんは容姿の想像を超えた大人の口調で言った。


 ニニ。


 それ、漢字?


 それともカタカナ?


「どうも球体それは少女というものがキーワードになっている節がある。例えば、ニニや他の娘は手に持てるが、私は触ることもできなかった。反発する磁石のように、拒絶されてね」


 え、そうなの?


 そういえば、ユキちゃんも、香澄ちゃんも、みんな女の子だ。


 男の子が触ることがなかったから気づかなかったけど。


「まあ、自然の物でないのは分かる。私も長年、魔法に絡んだことをしているからね。どこかの魔法使いが力を凝縮させて作ったと考えてるが、どうかな?」


 チラッと見やりながら言う鉄摩さん。


「さあな」


 目を鋭くして言うほむらちゃん。


「なるほど、言いたくないか。友達を助ける。それは本当だろう。しかしね、君がこれを欲しいように私も必要性を感じている。私が扱えないんで、ずっとニニに調べさせていたんだが、とんでもないものを発見できたからね」


 話しながら、ニニちゃんを促す鉄摩さん。


「はい。この中に、げんがあります」


 !


 ニニちゃんが発見したというもの。


 それは私のチカラ表すものだ。

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