第2話 潜入
ユキちゃんが校門にある鉄製の扉を開け、
扉は高さが一メートルくらいで、横へスライドさせるタイプ。
車輪がついているとはいえ重そう。
必要な分だけ開けた扉を再び閉じて、校舎を目指すユキちゃん。
すぐ後ろでユキちゃんについていく、ほむらちゃん。
「……」
その様子をじっと見ていた。
防犯カメラとかセキュリティ関係は、ほむらちゃんの方で操作できるから、それは分かる。
だけどユキちゃん、ダイヤル式の錠を一発で解いたのよね。
ここの生徒じゃないことを言っていた割には、ごく普通にやっている。
勝手知ってたる在校生みたいに。
私の意識は、ほむらちゃんが持つ球体を中心に知覚している。
そしてそれは別の場所で動いている
だから瞬間移動の感覚で、聖名夜ちゃんの持つ球体へ意識を移動して様子を知ることが可能。
でも、それは二人の間だけ。
ユキちゃんの持つ球体へは意識を移動できないし、他の球体もそう。
もしかすると、私を知っている人が球体を持てばできるとか、そういう事かもしれない。
それに、球体がどういう性質を持っているのかも分からない。
それもあって、私の欠片ともいえる球体が、ユキちゃんの復讐にどう必要なのか見極めたい。
──考えているうちに体育館の前に到着。
ガラス戸は閉ざされているし、これは鍵で開けるタイプ。
割れば別だけど、普通、中へ入るなら鍵が必要なはず。
ユキちゃんが鍵穴へ右手をかざそうとした瞬間、カチッと音がして開いた。
誰かが能力を使って開けたんだ。
「相手は気づいているようね」
「……」
顔を見るユキちゃんに対して無言で頷くほむらちゃん。
危険なことが起きるけどいいのね、という最終確認に、構わないと答えたわけね。
中へ入り、ガラス戸が閉じるのと同時に鍵が勝手にかかった。
気に留めないで進む私たち。
当然、中は真っ暗。
はっきり言って肉眼では何にも見えない。
私はチカラのこともあって、ある程度は分かる。
床が木で、壁側にバスケットボールのバックボードがあって、奥にステージがある、典型的な体育館。
ほむらちゃんも、身体を流れる血の力で感覚的に認識していると思う。
ユキちゃんどうだろう。
特別な能力でもないかぎり、何か道具を使わないと見えないはずだけど……。
「いけませんねえ、こんな夜更けに学校へ来るなんて」
体育館内に男性の声が響く。
すると目の前、五メートルほど離れたところで紫色のオーラと一緒に、一人の大人が現れた。
紺色のスーツ姿で銀縁のメガネをかけた、三十代前半に見える大人の
中肉中背で、身長は百七十センチくらいはありそう。
場所が場所だけに、先生ってかんじがする。
だけど、細く開いた目から紫の鈍い光が出て、まともじゃないことを示している。
この男性がユキちゃんの復讐相手なのかな。
「でもいいでしょう。せっかくいらしたんですから、気持ちよくして差し上げますよ」
そう言って笑いながら、その男性は右手からピンクの小さな泡を出して見せた。
「この泡に包まれた少女は、極上の快楽を得られます。顔を赤くし、身体をくねらせ、声をもらしてみてはいかがですかな? ああ、ご心配なく。感覚だけで傷物になるわけではありません。旦那となる方をガッカリさせずにすみますよ」
「!」
「けっ……」
怒りを
そして私。
ムカつく。
間違いなく女の敵。
変態さんだ。
「そうやって、いったい何人の子の未来を奪ってきたと思っているの」
怒りを込めて言うユキちゃん。
「まあ、私は吸精鬼ですからね。若い子の希望にあふれた精気をいただくのは当然でしょう。しかも命まで取らない。もっとも、そのあと無気力になって精彩さは失われますがね。だとしても普通に結婚して、女性の幸せは得られますよ」
悪びれることなく語る変態さん。
それも吸精鬼だって。
この禍々しさは、たしかに納得だわ。
「みんなと一緒に青春を分かち合う日々も、更なる高みへの道も、あなたが閉ざしたのよ。絶対に許さない!」
言いながら前に出るユキちゃん。
すっと手を前に出して構える。
「ほほ、ファイトプレイですか。いいですね。嫌いではありません」
泡を握りしめ、喜ぶ変態さん。
キッと睨みつけるユキちゃんの身体から、小さな光とともに一人の女の子のが飛び出した!
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