第3話 ユキの戦い

 小さく光るユキちゃん身体から、飛び出すようにして一人の女の子が現れた。


 剣道着を身につけ、ショートポニーをしたその子は、手にした竹刀を上段に構えて勢いよく振り下ろす。


 そこには変態さんの頭。


 バッシーン!


 体育館中に音が響く、型通りの見事な一撃。


 試合だったら防具ごと頭も潰しそうなくらい強烈なやつ。


 だけど、それは変態さんには届かなかった。


 から。


 右手で柄、左手で剣先近くを握ってしっかり防御している。


 しかもユキちゃんの身体から出た子と同じ顔、同じ髪型だから双子みたいに見える。


 違うとすれば服装と表情。


 変態さんの子は紺色のスーツを着て、目が紫になってる。


 ニタッと笑っている様子はいかにも悪者って感じだわ。


「この娘は県大会を制した実力者でしたね。鍛え上げられつつも女らしさを忘れない美しい身体をしていました。将来は剣術小町として名を挙げたでしょうが、その前に、大人を味わっていただきました」


「くっ……」


「それでお終いですかな?」


 笑みを浮かべる変態さん。


「まだよ!」


 ユキちゃんが叫ぶと、その子は一旦、距離を離してから、改めて竹刀を振った。


 変態さんの子も防御を解き、応戦する。


「えいや!」


「おお!」


 バシ! バシ! バシ! バシ!


 かけ声から、縦へ横へと竹刀が振られ激突する。


 そして──。


「やーー!」


 バシン!


 同時に放った一閃がお互いの胴をとらえ、二人は崩れるように倒れながら消えていった。


「はっはっは。いい戦いでした」


 軽く拍手して喜ぶ変態さん。


 それに対して、すごく疲れた様子のユキちゃん。


「だったら……」


 そう言うと、ユキちゃんは再び女の子を現した。


 今度は青いカンフーの道着を着たショートカットの女の子。


 すると変態さんも全く同じ女の子を目の前に現した。


 さっきの剣道っ子と同じく、向こうは紫の目に紺のスーツ。


 お互い、手の平を相手に向けて構えてる。


「この娘は八卦掌はっけしょうの使い手でしたね。しかもフランス人から武術を学んだという変わり種だ。なかなかの美少女で、将来はアクションスターになることもできたでしょうが、先に年齢制限のある演技を見せていただきました」


「!」


「やーー!」


「はーー!」


 ユキちゃんの怒りに反応して、その子が仕掛け、変態さんの子が迎えうつ。


 手の平で攻め、手の平で防ぐ、こぶしを握らない戦いが始まった。


 時々、キックもするけど、それも手の平でさばいている。


 リズムやテンポはカンフー映画を見ているみたい。


「せい!」


「むん!」


 かけ声も気がのってるかんじ。


 同じ技、同じ体さばきでのやり取りが続く、一進一退の攻防。


 そうなるとやっぱり、相打ちになるのかも。


 と、思った瞬間。


 変態さんの子が放った右掌底が、ユキちゃんの子のお腹にヒット。


「うぅ……」


 そのまま、うずくまるようにして倒れ、静かに消えていった。


 それを見下ろす、紫目の子。


「ふふふ、紙一重でしたね」


 満足した表情の変態さん。


「はあ……、はあ……、はあ……」


 ユキちゃん、かなり息が荒くなってる。


「だいぶお疲れのようですが、まだ続けますか?」


 膝をつき、ぐったりした様子のユキちゃんに、変態さんは余裕の笑みを浮かべる。


 魔法のこととかよく分からないけど、あれは多分、記憶を具現化したもの。


 魔力、でいいのかな、それを消費して行使しているんだと思う。


 しかも、気持ちを強くのせているように見えたから、その分、ユキちゃんの消耗が激しくなったんじゃないかな。


 すごくつらそう。


 一方の変態さんは吸精鬼ということもあって、その力はまだまだ十分にありそう。


 そして、ユキちゃんと同じ子を出したのは、あえて、だと思う。


 同じ子を戦わせて面白がっているんだわ。


 ムカつく。


 本当に、女の子を何だと思っているのかしら。


「それとも、そういうプレイですかな?」


「ふさけないで!」


 睨みつけて叫ぶユキちゃん。


「望んでもないことをされて、希望を奪ったあなたなんかに負けないんだから!」


「ほっほっほ、いいですね~。最高です。その顔がどうちていくか楽しみです」


 言いたい放題、言ってるわね。


「そこまでだ」


 前に出るほむらちゃん。


「ユキ、あとは俺にまかせろ」


「で、でも……」


「戦う理由がないとでも言うつもりか。あるだろう」


「……」


「あいつは俺ら女の敵だ」

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