一章 少女使い

第1話 ユキ

「学校か……」


 歩きながら呟くように言うほむらちゃん。


 視線の先には四階建ての私立M女子校がある。


 街の中心から北へ離れたこの場所は住宅が多く、そばに大きな池もあって涼しく感じられる。


 私とほむらちゃん以外、人気ひとけはなく、とても静か。


 ──私と魔女が一つになって分かれてから次の夜。


 球体の回収に、親友は早速、動いてくれた。


 五つに分かれた球体のうち、ほむらちゃんと聖名夜みなよちゃんが、それぞれ一個ずつもっているから、残り三個。


 手分けして追っている。

 

 赤黒く鈍い光を出すけど、ピンポン玉くらいの大きさで、丸い身体だから球体って言ってる。


 ただ、日中は存在が隠れて、夜でなければ見ることも触れることもできないみたい。


 そもそも魔女から脱出するだけのつもりだったから、詳しいことは私にも分からない。


 でも球体は、残りの球体の場所を示してくれる。


 感覚的なものだけど、やみくもに探すことがないから、まだまし。


 とはいえ二人に手間をかけさせてしまうのに変わりはない。


 ごめん!


 あとで美味しいものをおごるからね。


 と、伝えたいけど、それができない今の私はただの怪しい球体。


 おとなしくしています。


「──女?」


 見ると、校門の前に一人の少女が立っていた。


 私たちと同じ十七歳くらいに見え、ピンクのワンピースを着ていて、とても上品な感じ。


 白のシャツに赤いズボンのほむらちゃんと比べると、お嬢様に見える。


 ここは女子校だし、生徒なのかな。


 にしても不自然よね。


 平日だし、明日は普通に授業があるはず。


 よそ行きみたいな格好をして、夜の学校にいるのはどういうことだろう。


 はっきりしているのは、彼女から球体の反応があること。


「こんばんは。あなた、この学校の生徒?」


 そう言って彼女が声をかけてきた。


 澄んでいる、とてもきれいな声。


「いや、違うぜ。そう言うあんたも、違うんだろう?」


「ええ、


 含みのある言い方。


 だけど、ほむらちゃんは追及しなかった。


「単刀直入に言う。あんたもこれを持ってんだろう」


 言いながら右手にある球体を見せるほむらちゃん。


「持っているわ」


 すると彼女は左胸のポケットから、自分の持つ球体を出して見せた。


 こっちで持っているのが分かっているんだから、彼女だって、ほむらちゃんが持っているのが分かっていると思う。


親友ダチを助けるのに必要だ。渡してほしい」


 真剣な眼差しで言うほむらちゃん。


 それに対し、彼女はふと安心したような笑みを浮かべた。


「いいわよ。ただし条件があるわ」


「条件?」


「そう。私の……、私たちの復讐が終わってから、ね」


 視線を女子校に向けながら、復讐なんて言うけど、彼女の口調は穏やか。


 夜の九時くらいだし、この時間は誰もいないはず。


 でも、その目には確信と固い決意があった。


「……了解だ。だが、その場には俺もつき合わせてもらうぜ」


 今度はほむらちゃんが、緊張を緩ませて言った。


「いいわ」


「俺は中沢ほむら。あんたは?」


「私は……、ユキ」


 ちょっと考えてから答える彼女、ユキ。


 ユキちゃんね。


 漢字だとどう書くのかしら?


 名字は?


 なんて考えているうちに、ほむらちゃんとユキちゃんは校門の扉へ向かった。

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