世界が変わって
薄々わかってはいたことだ。
何故魔獣が突然出現したのか。
突然出現したということは、それを予見できたものがいなかったということだ。
今まで、魔獣によって大規模な――都市壊滅、とか――被害が引き起こされたことはほとんどなかった。魔獣は強大な力を持っているのに、何故被害が最小限に抑えられていたのか。
それは、魔獣が出現するために満たされるべき条件があるからだ。べき、とは言っても決して満たされてほしくはないのだが。
その条件とは、過剰な魔力の集中があること。
魔力が過剰に集中する事態というのは、世界規模の災害が起こった時や、極めて規模の大きい魔法行使があった時に引き起こされる。よって、そのような現象が起こってしまったとき、その地域には世界中から有力な魔術師が集まり、何日もかけて討伐する。
人間は、魔獣の出現の予兆があるからこそ何とか対処をしてきた。
――しかし。
今回の魔獣の出現は、思いつく原因が全くない。
大規模な魔法行使、天変地異級の災害。
そのような要因は存在しなかった。
○
王城の魔術師たちもそれは分かっていたはずだ。
それでもなお、姉さんをこの国に呼び、調査を頼んだのは、それが到底受け容れられなかったからだろう。それこそ、あの聡明な君主をしても。
結果は――該当する要因は、ない。それが結論だった。
しかし、今回の調査によって分かったこともあった。
極めて短時間のうちに、魔獣が発生するレベルの魔力の集中が引き起こされていた、ということだ。つまり、魔力が集中するから魔獣が発生するという原因の方は変わっていないということ。
だがなぜ、災害が起きたというレベルの魔力の集中が起きたのか。
それが掴めない。
「誰かが魔力を操作して、この場所に滞留させる。その規模が大きければ、魔獣が出現する程の魔力の集中を起こすことも不可能じゃない……」
「いやそれは……」
「……ありえなくはない、よね。世界のどこかに実力を隠している魔術師がいたって不思議じゃない……」
「それは……」
姉さんよりも圧倒的に高い技術を持つ魔術師がいる。
……その可能性が前提となっている。
「自然にこうなったって可能性は?」
「……確かに、その可能性は否定できない。でも、ここの地形に特徴的なものはないよ。魔力の流れが何らかの影響によって乱されているとしたら、ここの地形は普通過ぎる」
姉さんは手を口元に当てて、深く思案している。が、ぱっと顔を上げると、
「今すぐ王城に帰ろう」
と言った。
「この結果は全世界に報告しないと……。魔獣を出現させることができる魔術師がいるかもしれない、そして……」
何の前兆もなく、どこかに魔獣が現れるかもしれない。
その可能性を、伝えないと。
○
「……まぁ、そうだと思ってたよ」
王城で報告を待っていた国王は、そう呟いた。
「世界連合への報告書は既に書いてある……。本当は破棄したかったんだけどな」
「私も、嘘だと思いたいんですけどね」
「あなたが調査したとなれば、世界連合も認めざるを得ないだろう。……単独撃破の方は認めてくれないかもしれないが」
「それは別にどうでもいいんだが……」
どうでもいい訳ない、と姉さんとレイミアが同時に言った。
国王はそれを見て一瞬だけ口元を緩めたが、すぐに深刻そうな顔になる。
「この報告によって世界の様相は一変せざるを得ない。どこにでも予兆なく魔獣が出現する可能性があるとなれば、いつでも動かせる戦力を拡充しなければならない」
それによって、と国王が続ける。
「友好国同士の結びつきは更に強まるだろう。それ自体は別に悪いことではないんだが……。派閥の規模が大きくなることによって、派閥同士の関係は悪化していくと考えられる、ってのがな」
「そうですね……」
世界の分断が加速する。それは考えるまでもなく、悲劇だ。
「だが、希望はなくはない」
「……どういうこと?」
俺が尋ねると、国王は腕を少し持ち上げ、人差し指を伸ばした。
つまり俺を指さした。
「君が、ワイルドカードだ」
「……俺が?」
「ああ。君は魔獣を単独で撃破できるという点に於いて、世界で最強だということができる」
「いやでも、俺が単独で倒したってのは現実味がないって話じゃ……」
「今回考えるべきは各国でもトップレベルの実力を持つ魔術師たちのことだ。魔獣がどこからでも湧いて出てくる可能性がある以上、国は彼らを大切にしなければならない。他の国に渡られたりしたら困るからな」
「……それが?」
「彼らはおそらく、魔獣が放っていた凶悪な魔力を感知している」
「……ああ、そっか。それが今は消えてんだもんな」
「そうだ。世界連合のお偉いさん方には理解されないかもしれないが、各国の強力な魔術師たちは、魔獣が出現し、それが消失したということが分かっている。誰かの手によって討伐されたことを知っているんだ。一国の戦力での討伐が難しい以上、イレギュラーな事象が起こったと判断せざるを得ない」
「……国王」
「ん?」
「俺を使ってできることはある?一つでもあるんだったら、この瞬間から始めさせてほしい」
国王は少し笑った。
そっくりだよ、やっぱり。
そう言って、国王は俺に告げた。
「お前がやるべきは――」
学園への入学、かな。
「……んぇ?」
剣の王子が全てを変える 古澄典雪 @sumidanoriyuki
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