聖剣

 以前、考えたことがあった。

 この剣はだれがどうやって作ったんだろう。

 俺以外持ち上げることができない(と言われている。もしかしたら俺以外にも使える人がいるかもしれない…)というその性質上――というか、そもそもどうしたらそんな性質を武器に持たせることができるのかもてんで見当がつかないし――生半可な方法では作り出すことができないと考えていた。

 ――そして、今、この剣は異常だと姉さんによって確かめられた。

 人間に理解しうるようなものではないと、証明された。

 つまり、これは聖剣だということだ。

 ――聖剣。

 ルーツから言うと、これは神代の時代に英雄が精霊から与えられた霊剣エヴァンシュのもう一つの呼び名。で、そこから派生して、通常では考えられない性能、能力を持つ剣のことを聖剣と呼ぶようになった。

 姉さんはちょっと首を傾けて、言う。

「聖剣かぁ……。だったら魔獣の単独撃破にも信憑性が」

「出る?」

「出ない」

「まあそうですよね……」

 レイミアが苦笑している。

 確かに聖剣には並外れた効果を持つものが多い。

 それはまぁ当たり前の話で、この世界は魔法という概念があるため、事象の解釈の仕方が多い。武器で言えば、材質を読み解くことが大半なのだが――材質に魔法的な力が内包されているのか(いることが圧倒的に多い)、だとしたらそれはその材料がもとから持つ性質であるのか、作られたときに込められたのか、どのような魔法が絡んでいるのか、その魔力の質はどうなっているのか――また、材質に魔法が絡んでいないとしても、剣の形状の分析、使われている金属などの素材の配合、このようなものはある程度の実力を持った魔術師が調査をすればすぐにわかる。

 何が言いたいかというと、そのような多種多様な分析、解釈を経た結果、大部分のものはということだ。その時点で、『通常では考えられない性能、能力を持つ』という聖剣の定義に当てはまらなくなってしまう。理解できてしまうんだから。

 そんな、チートじみた魔法による解析をしてもまだその剣の性質に説明がつかない。という場合に、それは聖剣ですねぇ。となる訳だ。ありきたりな事象が弾かれた後に残るのが聖剣なのだから、聖剣は特別強力な(あるいは変な)剣にしか与えられない称号だと言える。

 しかし。

 過去に聖剣の保有者だった者でも、単独で魔獣を倒したものはいなかった。神話ですら、『聖剣の持ち主が大人数の魔術師を率いて魔獣を倒す』というストーリーになっている。

 魔獣を単独撃破したなんて、ほとんどの人は信じないだろうな。

 そう考えていたのを感じ取ったのか、姉さんが、

「もちろん私は信じてるよ」

 と言った。どう返事をしたものか若干たじろいでいたところ、

「……私も、実際に見てなかったとしても信じてたから」

 とレイミアが拗ねたように言う。張り合ってどうすんじゃ。

 ……でもまあ。

「……ありがとう」

 心からこぼれたように、その一言は自然に出てきた。

 ○

 じゃなくてさ。

「調査をしに来たんじゃなかったっけ?」

 魔獣と戦った辺りに着いてから、かなりの時間が経っていた。忘れてたのかな、姉さんらしくないうっかりだな、と思っていると。

「到着した時から始めてるよ」

 とのことだった。優秀すぎですよ、姉さん。

「……これって、どんな風に調べてるの?」

「まずは私の魔力を限界まで薄めて、全範囲を覆ってみてる」

「……ああ、魔力の性質――えーと、異なる魔力は反発するってやつの応用?」

「うん」

「それでどこに魔力が残ってるのか調べてるってこと?」

「うん」

「それって理論上の話で、現実には感じ取れるレベルじゃないって聞いたんだけど」

「うん」

「いやうんじゃなくて」

「私もそう聞いてたんだけどね。出来るんだからしょうがない」

 レイミアがさすがお姉様、って感じの目をしている。

 姉さんの魔法についての理解、そして技術は卓越したもので、それは出会ってから数えきれないほど実感してきた。

 そんな姉さんだが、俺と出会う前までは、そこそこの魔術師としか見られていなかったらしい。この話を聞いたとき、俺は意外に思った。姉さんはこれだけの力を持っているのに、何故過小評価されていたのか、と。

 ……しかし、よく考えるとそれは違うのだろう。

 姉さんは意図して力を抑えていた。そう考えたほうが自然だ。

 なら何故力を見せ始めたのか。

 魔力の操作に没頭している姉さんの横顔を見ながら、そんなことを考えた。

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