魔術の果て
○
姉さんと俺は血が繋がっていない。
前にも言った気がするが、これは、優秀な者を君主――または、将来の王の近くに置き、見識を広めたり、憧れを抱かせることによって、国を背負う人間のレベルを上げるために行われる、この国特有の制度によって生まれた状況だ。
従者や家庭教師のような立ち位置ではなく、きょうだい。
しかし、歴代の――制度利用者、って言おうか?……しっくりこないが――の中には様々な考えを持つ人達がいた。
制度の上できょうだいになったとはいっても、やはり国民と王族。尊敬の念をもってかかわるべし。そう言った人がいた。
まあ、そこそこ近い距離間で付き合えばいいんじゃないか。そう言った人も。
私はあなたのお姉ちゃんだから。存分に頼ってね。
お察しの通り、最後のが姉さんの発言。姉さんが姉さんになってから、俺は姉さんに散々引っ張りまわされた。ええもう、ほんとに。
でも、それに救われた、とは思っている。
だから――――。
○
「というわけで、もう少ししたら魔獣と戦った場所に案内してね」
「もちろんです!」
レイミアが元気よく答える。俺もはーい、と呟いた。
ちなみに、レイミアは姉さんを尊敬している。それも当たり前だろう。俺はもうなんか当たり前すぎて感覚が麻痺しているのだが、姉さんは世界でも指折りの魔術師だ。どれだけの才能と努力を魔法技術に込められればそんな芸当ができるんだという絶技を数十個持っている。例えば、水中で炎を自在に動かしたり。またまたちなみに、どうしたらそんなことが起きるのかは教えられても理解できなかった。
姉さんの事は、割と知っている。
――だが、正直に言うと、俺は姉さんのことを理解できているとは思えない。もちろんそれは姉さんが悪いのではなく、俺の方の問題だ。
俺にはやはり、何かが足りないのかもしれない、と思った。
「セリス?」
「うぉあ」
姉さんの声が真横の間近から聞こえ、俺の思考は強制的に打ち切られた。
「何か考え事してた?」
「ああ…いやまぁ」
こんな会話をついさっきレイミアとした気がするなぁ…。
「さっきもぼうっとしてたよね……やっぱり疲れてる?」
レイミアが心配そうに俺を見る。
姉さんのこと考えてたとか言ったら呆れられるよな。当たり前か。
「……早く起きすぎたかもしれん。眠い」
「……まあ、納得しておいてあげる」
レイミアの視線が訝しげなものに変わってしまった。残念。誤魔化せなかった。
そこで姉さんが若干自慢げに、「私はいつも四時起きだけどね」と言った。
「マジすか尊敬します」
「今まで尊敬してなかったの?」
「……それは言葉の綾」
○
「この辺で戦った――んだよな?」
「何で自信なさげ?」
「あんまり記憶がはっきりしてなくて」
やっぱりあの剣を手に入れた時からちょっと体がおかしい。――あ、そうだ。
「姉さん」
「ん?」
「この剣ってなんか魔術的にすごかったりする?……父さんからざっくりとした説明は受けてるんだけどさ」
「すごかったりって……」
俺は剣の柄と先端を両手で持ち、俺の語彙力に感心している様子の姉さんに見せた。
姉さんは人差し指を持ち上げ、刀身に触れる。
微弱な魔力を指先から流し、剣の性質を調べているようだ。これは高度な技術であり、かなりの実力を持っていないとできない芸当なんです。魔法が使えていたとしても俺にはできなかったと思う。不器用だから。
○
二分くらいしただろうか。
「…………ごめん」
「……え?」
「よくわからなかった」
「…………え?」
「いや、分からないことが分かったって言うか……」
そう言われてようやく気付いた。
世界最高クラスの実力を持つ姉さんが解析できない。
それ自体が意味を持つ。
つまり、この剣は人間の理解の範疇にないということだ。
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