再会


 ○

 庭園に咲く花を見ている。

 ここの庭園はやはり心を動かす何か特別なものがあると思う。どこで自然を見てもこんな気持ちにはならない。生命の力があふれ、美しく輝く花たちはいつまで見ていても飽きない。

 風が吹いて、花々はその表情を変えていく。花びらが揺れ、茎がしなり、葉が踊るように微かに動いた。

 ――あの日、魔獣を殺したあの日、俺には何かが分かっていた。そう、分かっていた。それは覚えている。

 けどなぁ……何が分かったのか今は全く思い出すことができないんだよな。どうしてだろう。

 俺は傍らに置いている剣を見た。おそらくこいつが原因だろう。この剣を握ってから俺は奇妙な現象に好かれてしまったような気がする。記憶が消えたり。都市が壊滅しているようなビジョンを見たり。疲れてんのかな…。

 もう少しで完全に陽が昇り終わる。

 早い時間に起きてしまったのは、連日のごたごたのせいだろうか。

 しかし、まぁ、こんな景色が見られるんだったら毎日早起きしてもいいかもしれん。

 そんなことを考えていた時だった。

 不意に肩に重みを感じる。

「わひっ」

 思わず驚きが口から出てしまった――出てしまった後で、これ後でからかわれるな、と思った。

 ゆっくりと振り返ってみる。

 暗闇の中でもくっきりと浮かび上がるような、鮮烈な印象を与える金髪を持つ少女。

 彼女は俺の――幼馴染……か?どれくらいの年齢で出会ってれば幼馴染なんだろうな。

 それはまあ、どうでもいいことだ。俺はかつて彼女と出会い、そして今この庭園で同じ時間を過ごしている。それだけだ。

「…セリスがこんなに驚いたところを見るの、久しぶりかも」

「い、いや、まあな。ちょっと考え事をしててだな…」

 俺がそう言うと、レイミアは考え事?と少し首を傾げた。

「最近いろんなことがあっただろ?ちょっと整理がついてないっていうかな…」

「…ああ。そうだね」

 魔獣が出現したこと。そしてそれを俺が一人で討伐してしまったこと。

 ――いや、その前の事も。俺は魔法が使えない。だが、剣に愛されている。そのことを完全に理解に落とし込むのはまだ難しそうだ。

 だが、実際に俺は魔獣と剣で戦った。実感が追い付いてくるのも、時間の問題だろう。

 それはそうと。

「レイミアってこんなに早く起きるタイプだったっけ?」

「ううん。今日はたまたま目が覚めただけ。セリスは?」

「俺も同じ。奇遇だな」

「そうだね」

 ふふ、とレイミアが静かに笑った。

 ○

 何十分か話した後で、レイミアが、「そういえば、お父さんから伝言が」と言った。

 厄介事の予感しかしないのは何故なんだろう。

「…何て?」

「魔獣が出現した原因の調査を頼んだから、その魔術師が到着したら案内してやってくれ、って」

「へえ。…でも、王国の魔術師団が何も検知できなかったんだろ?そんじょそこらの魔術師が来ても同じ結果にしかならないと思うんだが」

「…えっと……世界でも屈指の腕を持つ人に依頼したって言ってたよ」

 レイミアが何故か若干苦笑を浮かべながら言った。

「世界でも屈指の………?」

「もうすぐ到着するって」

「え?急すぎ…っていうか早すぎないか?連絡できたとしても昨日だろ?」

「だからまぁ…そういうこと、なんじゃない?」

「どういう……」

 そこまで言った時、脳裏に閃きが。そういうことなのか?え、まじ?

 かたり。

 庭園と王城を隔てる扉が開く。

 今まで魔力を完全に隠していたのだろう。急に、辺りの魔力が変質し出す。本当に力ある術師は、魔法を発動せずとも現実を書き換えることができてしまう。

 この世界で真に力あるものが誰なのかを世界自身が示すように、彼女が現れると空間が――その場所が呑み込まれていくような心地がする。だが、不快な感じはしない。優しく、穏やかで。清浄な風が身を包んでいくような感覚を覚えた。

 彼女が口を開く。

 ある程度の距離が開いているが、彼女の声は心に直接染みてくるように、はっきりと響いた。

「……二人とも、おはよう」

 第二王女……そして、俺の姉―――ラヴェルナ=フィルレイン。

 彼女は、再会の喜びを笑顔に込めて、俺たちに向かって手を振った。












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