告白――微笑み

 見慣れた部屋に入る。

 きらびやかな装飾は見られないが、家具のセンスがいい。なんか落ち着く。

 ソファにレイミアと横並びで座る。

「それで、話っていうのはだな…俺の魔法の事なんだが……」

 そう言い始めた途端に、レイミアが肩を若干落とした。何か呟いたようにも見えた。

「……どうした?」

「なんでもない」

「お、おう。でだな」

 俺は口で説明するよりも実際に見せたほうが早いと思い、――先ほど座ったばかりだが――立ち上がった。そして誰もが最初に使う魔法、光魔法の初級魔法の動作をなぞり、魔力を操作する。

 だが、いつまでたっても光が生まれることはない。

 それを見たレイミアは驚いたようだった。

 正直失望されるのではないかと不安に感じていた。隠そうかとも思った。だがレイミアに嘘はつきたくないと思った。俺たちの関係性はそんなことで揺らぐものではないと願った――いや、願っている。

 数秒たってから、レイミアが立ち上がった。

「魔法が使えない――ってこと?」

「…ああ。なんの魔法も使えない。思いつく限りの努力はしたつもりだ。だが、見ての通り」

「そうだよね……魔力操作も完璧だし」

「……ああ」

 俺はレイミアを見つめていた。

 どのような反応が返ってきても、俺は彼女の事を嫌いになることはできない。

 彼女がこんな俺を拒絶するならば――俺は彼女のもとを離れよう。

 そう決意を固めていた俺に、レイミアは、

「…怖かったでしょ?」

 と言った。

「…ん?」

「魔法が使えなくて――皆に嫌われるんじゃないかって思ったでしょ?」

「…それは、まあ……」

「……大丈夫だよ」

 レイミアは俺の手をとった。そして指を絡ませる。

「私があなたを嫌うことなんてありえない。皆も――あなたを大切に思っている人たちも、魔法が使えないくらいであなたを嫌ったりしない。魔法が使えるかどうかなんて、どうだっていい」

「レイミア………」

「魔法が使えても使えなくても、セリスはセリスでしょ?…それに」

 レイミアは少し俯いて、

「あなたが出来ないことは、私がするから……」

 と言った。

 その直後、一瞬視界がにじんでぼやけたかと思うと、急に世界が遠くなっていくような感覚を覚えた。音が遠ざかり、景色が薄れ、浮遊感が襲ってきた。全てが泡になって消えていくようだった。

 だが、俺の右手を温かく包む手の感触は消えることはなかった。薄れることもなかった。

 俺は何か言おうとして、息を吸った。

 喉が熱くなっているように、感じた。

 ○

「…魔法は使えないんだが――」

「ん?」

 俺は父さんからもらった後ずっと持っていた剣の柄に触れた。

「俺は剣をうまく使えるらしい」

「…らしい?」

「…あー。上手く言えないんだが……ほぼ初めて使ったときから使い方を熟知できていたみたいな…いや、それもちょっと違うんだけど…」

 さっきと同じで見てもらったほうが早いか。

「外に行こう。広いスペースが欲しい」

「…うん。わかった」

 城の中庭に出て、修練スペースのある場所へ移動する。…ちなみに、中庭は冗談みたいに広い。向こうが見えないくらいだ。だが、王族は魔法に高い適性を持っていることが多い。上級魔法の訓練をするには、これくらいのスペースが必要不可欠。

「この辺でいい?」

「ああ。ちょっと離れててくれ」

 レイミアが後方に移動するのを確認してから、俺は剣を鞘から引き抜いた。やはり俺に足りない何かを剣が満たしてくれているような気がする。静かな高揚感が俺を満たす。闘志が湧くということではない。ただ――こうして生きて、剣を握ることができることへの単純極まりない喜び。

 世界が減速していく。急激に指先が冷えていくように感じる。

 そして、ただ、剣を振った。

 空気を斬る音。一瞬遅れて剣の先が下を向く。

 風が止んだ。

 何もかもが止まったように感じた。

 少し後、俺は振り返った。

「こんな感じなんだけど…」

「…今の、何?」

「剣を振っただけだけど」

「剣を――?」

「ああ……どうした?」

「地面、見てみて」

 指さした方向を眺める。地面には亀裂が走っていた。

「なんだこれ」

「セリスが斬ったんでしょ……」

「………そう、なるかな」

「それはもう―――魔法じゃない?」

 そう言って、レイミアは笑った。

 嬉しそうに。

 心底嬉しそうに、微笑んだ。

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