フェリフィネア王国の王女

 俺の父さんが王として統治している王国は――当たり前の話かもしれないが――複数の国と友好的な関係を結び、そして同じくらいの数の国と敵対的な関係にある。もちろん中立的な立ち位置の国もあるが。

 友好的な関係を築いている国のうちの一つ、フェリフィネア王国について少し語る。

 フェリフィネア王国の特徴は、とにかく国民の生活が安定していることだ。何でもないことのように思えるが、それは国民にとって最高の環境と言ってしまってもいいと俺は思っている。国民が不安や危機におびえることのないようにするためには、政治の手腕はもちろん、どのようにして国の方針を決めたのか、決定をした理由は何かといったことをきちんと国民に示す必要がある。

 ということで、今俺は、その善政について学ぶためにフェリフィネア王国を訪れている。

 国境を越え、国の中心となる都市のそのまた中心へ。そこに、王城がある。

 見上げてみると、それほど絢爛豪華な建物でないことが分かる。

 王城は基本的に王族の権威、または特別性を示すために飾られていることが多い。

 つまりこれは、王城の装飾によって王族の権力を誇示しなくても、国民がついてきてくれることを表している。

「まじで人望あんだな……」

 呟いていると、衛兵が城の門を開けた。衛兵は礼をして、俺が王城に入るのを待っている。

 それに礼を返して――衛兵から見えているかどうかわからないが――王城に入った。

 ○

「お待ちしておりました」

 入った途端に、美しい声が俺を出迎えた。

「久しぶり、レイミア」

 ずっと眺めていたくなるような綺麗に流れる金髪。優しさをたたえた微笑み。動作の一つ一つが洗練された上品さを伴っている。もし彼女が平民と同じ格好をして町にいたとしても、誰もが彼女を王族だと認めるだろう。

 彼女は俺の幼馴染だ。

 初めて会ったのは四才だったはずだから――今から十一年前か。それから交流は途切れることなく続き、彼女とはかなり親しくなれたと思っている。

「……えー。邪魔して悪いが、俺の事も忘れないでくれよ?」

 …断じて忘れてはいないが、最初に挨拶をするのがこの人でなかったのは失礼にあたると思い、すぐに言葉を返す。

「失礼しました…お久しぶりです。国王陛下」

「別にかしこまってくれと言っているわけじゃないんだが…。ああ。久しぶり」

 レイミアとは違って、この人はただ立っていると普通のおっさんにしか見えない。しかし彼は、フェリフィネア王国史上最高の王として名が上がるほどの国政の手腕を持っている大人物だ。何度か見たことがあるが、仕事をしているときの彼は雰囲気ががらりと変わり、周囲を飲み込んでしまうような存在感を放つようになる。頭も相当切れる――と思うのだが、底が見えない。

「今回も何日か泊っていくのか?」

「ええ。そうさせてもらいます」

「そっかそっか。じゃ、俺は引っ込むわ。仕事が終わらないんだよな…」

 国王陛下はそう言って、かなりの速足で部屋に戻っていった。まじで仕事終わらないのかな…。

「…えっと」

 レイミアが少し首を傾げ、

「これからどうする?」

 と訊いてきた。……そうだな。

「話したいことがあるんだけど…」

「話したいこと…?」

「まあ…そうだな。あんまり人に聞かれたくないんだが…」

「……え、…じ、じゃあ、私の部屋に行く?」

「そうするか」

 レイミアはすぐに顔を背けて、部屋の方向に歩き出した。




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