魔法ではない――と
どうしてこんなことができたのか、全く理解ができなかった。高速で飛んでくる氷片を剣で斬ってしまうなんて、想像することすらしたことがなかった。
だが俺は、あの瞬間に知っていた。俺はこの魔法を斬ることができると知っていた。だから、俺はその記憶にあった動きをただなぞっただけだった。
父さんがこちらをじっと見ている。何を思っているのか、その瞳からは読み取ることはできない。だが、数秒後、父さんは口を開いた。
「それは」
俺を――いや、俺と剣を指さして、父さんは言った。
「それは魔法ではないのか?」
父さんは寡黙な人で、普段から言葉が少なく、意味が分かりにくいことがある。今回の言い回しも若干わかりにくい。
「…魔法を消す魔法があったよな」
……ああ、そうか。
「これが魔法でないと誰が断言できるのか、ということですか」
父さんは深くうなずいた。俺は魔法を剣で斬ったが、これは現象としては魔法が消失したというだけだ。そういう魔法も実際に存在する。
なら。この剣技が魔法でないと証明できるものはいるのだろうか。
俺は息を深く吸った。
つまり父さんはこう言っている。
その剣技が魔法だと世界に証明して見せろ。
○
「セリス!」
ラヴェルナ姉さんがこちらに駆け寄ってくる。
父さんの魔法を剣で斬った後、俺は自分の部屋へと戻ろうとしていた。そしてその途中で、姉さんにばったり会ってしまった。
姉さんは俺のほんの目の前で立ち止まり、俺の頬に手を当てた。
「王家から離れちゃだめだよ。魔法は私が何とかするから…」
「ああ、いや……」
「とりあえず仮説をいくつか立ててみたから試して――あれ?それって」
「……父さんからもらった」
姉さんが剣を指さしたので、経緯を説明する。
俺は魔法が使えない。
だが剣に愛されている。
「…そっか」
話を聞き終えた姉さんの表情には安堵と喜びが浮かんでいた。
「王家を出るって言いだすんじゃないかってずっと思ってたの。…それを止めるには遅かったみたいだけど…でも、よかった。これからもセリスと一緒に居れて」
微笑みとともに、姉さんは優しく俺を抱擁した。
○
「…姉さん?」
一分が経過しても抱擁をやめる気配がなかったので、声をかける。
「あの……」
「…ん、まあ、今日はこれでいっか」
今日は?
これで?
次があることと先があることが確定しているみたいな言い方だが…。
「じゃあ、お父さんに用事があるから行くね」
「うん」
姉さんが手を振って向こう側に歩いていく。
関係のないことだが……ラヴェルナ姉さんと俺は、血縁関係がない。加えて第一王女と俺も血縁関係はない。ぶっちゃけ、父さんの『子供』で父さんと血がつながっているのは俺だけだ。
ここの王家はかなり特殊なシステムで成り立っていて、地位的に王家のすぐ下、五名家の子供で優秀な者がいれば王族に取り入れる。それは王族との婚姻という形ではなく、単純に父さん――国王の子供になる。
過去には――いや、かなり頻繁にあることだが、名家から来た者が次期国王と結婚することもある。
……関係のないこと、だが。
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