王家を

 俺は覚悟を決めた。

 王族であることをやめる。この意思を、父に伝える。

 魔法が使えないというのは、異質で、不気味だ。もし俺が魔法が使えないということが国民にばれたなら、様々なネガティブな噂が広まるであろうことは想像に難くない。王家は呪われている、とか。

 恐らく、父は既に俺が魔法を使えないことの報告を受けているだろう。そして、どのような対応を取るのか考えているはずだ。そこで採られる行動は――俺の王家追放だろう。

 噂云々だけでなく、戦力的にも、王家の者が魔法を全く使えないということは響いてくる。王家の人間は基本的に高い魔法の才能を持っているものだ。それは、魔法技能の高い者を祭り上げて王族にし、国を作ったという経緯に由来する。しかしその王家で魔法を全く使うことが出来ない者がいるとなると、国の戦力は大きく落ちる。

 そして、俺はいずれ国王になるはずだった。

 王家に魔法を使うことが出来ない無能がいる、では話はとどまらない。王が――その国の最高戦力になりうる存在が、全く機能しないと諸外国に示せばどうなるか。滅びはしないかもしれない。しかし軍が送られてくることは確実だ。この国には豊富な資源があり、それを無駄なく上質に加工する技術まで伝わっている。ワンチャン狙いで攻める価値のある国だ。

 だから。

 俺は王家から出る。

 父さんの部屋の前に立つ。俺はこれから、親を失い、きょうだいを失い、孤独をかみしめて生きなければならない。そう考えると、震えが走った。だが、躊躇することはなかった。俺に取れる選択肢――この国を最優先に考えた選択肢はこれだ。これ以外の選択肢は考慮する価値もない。

 息を吐いて、ノックした。

 父さんの声が響き、入室を許可される。

「失礼します」

 父さんは机に向かい、何か書類を読んでいた。

「…………ああ」

 低い声が響く。書類が机に置かれ、父さんの目が俺を捉えた。

 その目には晴れ渡った青空のような美しい青色が宿っている。だが、今はその色が現実離れしたもののように、遠くで小さく瞬く星のようにはかないものに見えた。それはおそらく、俺がこれから遠い場所に立つからだろう。もうこの姿を見ることはない。

「私の魔法技能について、お話があります」

「…………ああ」

「…私は魔法を全く使うことが出来ません。それは恐らく一生続くものだと考えます。魔法を使えない無能は――王家には必要ない」

「………………」

「今この瞬間、私は――王家を」

「待て」

 鋭い声が飛んだ。俺は父さんを見た。父さんが声に激しい感情をのせたことなんて、今まで数えるほどしかなかった。

「見せたいものがある。ついてこい」

「…………はい」

 父さんは椅子から立ち上がり、部屋の出口に向かう。

 それに続いて部屋から出て、階段を下りる。

 父さんはどこへ向かっているんだ?

 一階に着く。

「あの、どこへ…」

「もうすぐだ」

「……はい」

 〇

 父さんは一つの扉の前で立ち止まった。

 ――王城にこんな部屋あったか?

 そう思った俺の心を見透かしたように、

「普段は魔法で隠している」

 と父さんが呟いた。

 扉が開かれる。

「あれを持ってみろ」

 父さんが指差したのは、

「…………剣?」

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