無題(lullaby)

@ayumi78

無題(lullaby)

不思議な魂達に出会った。大人の女性の魂が、小さな子供の魂を抱きしめていた。

いい子ね、子守唄を歌ってあげる……と、子供の魂に呟き、優しく歌を歌っている。

「あなた達、親子なの?」と問いかけると、大人の女性の魂は首を振って、「違いますよ、私はこの子の母親じゃありません。ここで泣いているこの子を見つけてあやしているんです」と答えた。

なるほどね、たまたまここで出会った2人か。

女性の魂の方は、DVを受けて殺されたらしい。そういえば、人間の街に出た時、街頭の大きなスクリーンに映し出されたニュースで見たことがある。旦那の方は逮捕されたけど、無実を主張しているとか……

子供の魂の方は、やっぱり虐待で死んだらしい。こちらは人間が読んでいる新聞の片隅に掲載されていた。

お互いがここで出会い、温もりを与えあっているのか。微笑ましいといえばそうなんだけれど……

私はあくまで冷静に「ねえ、この後どうするの?どうしたいの?」

と尋ねる。

女性の魂は、「ずっと…一緒に…いたい」と言う。まあ、そうよね、理解できなくも無い。でも、「このままここにいたら、あんた達地縛霊になるよ?そうなったら、私には対処できなくなる」

そう、悔しいけど、地縛霊を宥める力は、まだ私にはない。その上実際には、もう地縛霊になりかかっているのだ。

「いや…この子と…離れたくない…いや」と俯いたまま呟く女性の魂と、「まま…まま…」とすすり泣く子供の魂。どうしようかと考えているうちに、地縛霊化がますます進んで、どんどん膨れ上がっていった。

あ、これはマズい。とにかくなだめなきゃ……と思っていたら、「おーい、ヤバそうやな」とのんびりした声がする。

「ごめん、悪いけど手伝ってくれない?私じゃ手に負えない」悔しいけど仕方ない。私は応援を要請した。

「分かった。すぐ行くから待っといてな」

すぐって言われても……もうそろそろ本当に地縛霊化してしまいそうなのに……

しばらくして、「お待たせ。落ち着いてな、大丈夫や、引き離すことはせえへんから」と、霊たちに優しく話しかける彼の姿があった。

「え?でも」

「事情が事情やん。無理に引き離したら本当に悪霊化してしまうよ。」

「そういうものなの?」

「まあな、全部をマニュアル通りになんか出来ひんよ。臨機応変にな」

と言うと籠を取り出し、「一緒に入り。心配せんでいいよ」と、2人の目の前に置いた。それまで膨れ上がっていた2人の魂は、安心したのか小さくなり、一緒に籠の中に入っていった。

「ほい、完了。ごめんな、仕事横取りして」

「こっちこそありがとう。さすがね」

見た目よりもキャリアが長い為か、彼には私よりも実力がある。だから、こんな厄介な仕事も出来る。

見習わなきゃね、と呟くと、「ん?何か言うた?」と振り向いてきた。

「別に」

「そっか」

今日の仕事はこれでおしまい。戻ったら少し休憩しよう。そういえば、前の休暇の振替があったはずだから、「ねえ、ちょっと一緒に出かけない?」と誘ってみた。それなのに、

「え?ボク、ちょっとのんびりしたいなあ」と、すげなく断られた。

まあ、またいつでもいいか。と思い直し、私達は帰路についた。

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