日曜日に出かける約束(※デートに非ず)

「ねぇ……あんた」


「ん?」

 

 俺は鈴に声をかけられる。場所はリビングでの事だ。こいつは俺の事を『お兄ちゃん』ではなく『あんた』とか、そういう風に呼ぶ。


「あんたではない! 俺はお前の『お兄ちゃん』だ! 『お兄ちゃん』と呼べ!」


「それは私が認めるあんたになるまで呼ばない約束でしょ。今は呼ぶつもりない」


「それもそうだな……俺もお前の事を『妹よ!』などと呼びはせん」


「いや、一生呼ばないでいいし」


 鈴は嫌そうな顔で言う。


「それで何か用か?」


 現在のところ、鈴は何か用件がないと話に来ない。必要最低限の会話しかしないのだ。無意味に話しかけてくるという事はない。話しかけてきたという事はつまるところ用件があるからに他ならなかった。


「日曜日暇?」


「……暇と言えば暇だが、なんだ?」


 俺は佐藤と藤木。いつものオタク連中とリア充ならぬオタ充をしようと思っていたのだが、別段重要な用件でもない。決まっていたわけでもないし、あいつらから誘ってきても断ればいいだけだ。


「出かけない?」


「出かけるだと……男と女が出かけるって、つまりデートの誘いだろ! それはっ!  なんだ! もう俺の事兄としてではなく、一人の男としてみるようになったのか! 貴様はインフェニット・ズドラトスのゼシリアか! チョロインなのか!」


「んなわけねーだろ! この馬鹿オタク!」


 鈴は俺を罵ってきた。


「だから私が『お兄ちゃん』だって友達に、皆に紹介できる男になってって言ったじゃん。その為の第一歩よ。第一歩」


「第一歩って」


「人間、髪切って整えて、服をそれなりにオシャレにすればそれなりに見れるのよ」


「それもそうだが……」


 何事も形からか。それは否定しない。確かにオタクでもそれなりに小奇麗に身なりを整えて、ファッションに気を付ければそれなりに見えるものである。


「だから髪切って服買いに行こうって言ってるのよ」


「ふむ……そうか」


 俺達はあの日。お互いがお互いの理想になる為努力し合う事を決めた。だから鈴の申し出は至極真っ当なものだ。


「わかった。じゃあ、日曜日一緒に出掛けよう」


「そう……じゃあ、朝の9時頃家出て、街中に行きましょうか」


「待て!」


「え? まだ何かあるの?」


「不公平だろ。お前の要求ばかり通るの」


「何か要求があるの?」


「俺がお前の理想の兄になる為努力すると決めたように、お前も俺の理想の妹となるべく努力すると誓ったはずだ! 違うか?」


「まあ、それはそうだけど」


「だから、俺は鈴、お前に要求する!」


 俺は宣言した。


「要求?」


「お前にオタクとしての基礎知識を叩きこんでやる!」


「基礎知識?」


「ああ! 俺の理想の『義妹(いもうと)』たるもの! 兄の趣味に理解がなくてはならぬ! そもそもお前は基礎的な知識がなさすぎるんだ!」


「だって仕方ないじゃん。私、別にオタクじゃないし」


「それが問題だと言っているんだ! それにオタクではない事を偉そうに言うな! 物事を知らないだけで無知蒙昧な存在というだけの事だ!」


「酷い言いよう……なんでオタクってこう、自分達だけが知っている事があるってだけで偉そうなのかしら」


「何か言ったか?」


「ん? い、いや。別に」


「そういうわけで、お前の用事に付き合った後、俺達はアニ〇イトに行く」


「アニ〇イト? なにそれ?」


「アニ〇イトも知らないのか! この常識知らずめ! 貴様にオタクとして基礎知識を俺がみっちりと叩き込んでやる!」


 こうして俺と鈴は日曜日に出かける事にあった。お互いの成長の為だ。


 決してそれはデートなんかじゃない。多分。

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犬猿の仲だったオタクとギャルが兄妹になりました つくも/九十九弐式 @gekigannga2

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