二人の秘密
こうして鈴との共同生活が始まったわけだが。俺達はまだ両親が再婚し、兄妹関係になった事を誰にも喋っていない。
これは二人で決めた取り決めだったのである。鈴が俺が兄になった事を周りに知られなくなかったようだ。
これに関しては俺も同じであったので同調した。そして両親が夫婦別姓を取り入れているので、この知られなくないという問題は概ねクリアできた。
勿論、住所だとかそういう問題はあるが、学園の上層部しか知られないように頼む事ができた。今の時代、個人情報は秘匿されているのだ。
だからそのくらいの融通は利く。
『二人が打ち明けてもいい、と思える時が来るまで、どちらか一方から打ち明けるのはやめよう』それが二人で決めた取り決めであった。
俺達が兄妹になる上での。これが俺達二人の秘密であった。
登校時間もずらして登校するようにはしていた。だから俺はいつもより遅い時間に登校するようになり、ギリギリの時間になっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ」
俺は走って教室に入る。何とかギリギリで遅刻は免れた。
「あれ? 吉村氏、最近随分と遅いでござるな」
「ははっ。さては深夜アニメを見すぎて、最近寝坊気味なんだろ」
オタク仲間の佐藤と藤木が答える。佐藤は『拙者』だとか『ござる』とか最近マイブームらしくてつけているからわかりやすい特徴があった。まあ、この手のマイブームはすぐに過ぎるから、割と簡単に通常語になるかもしれないけど。
「そんなところだよ」
親友のオタク仲間が相手とはいえ話せない秘密がある。当然のように教室には既に鈴が来ていた。
担任の先生が教室に入ってくる、こうして朝のHR(ホームルーム)が始まった。
◇
休み時間の事。俺達はいつも通り、ゲラゲラとオタク談義に華を咲かせていた。
その時であった。鈴が姿を現す。
「な、なんだ! そなたよ! また拙者たちの談義を邪魔するつもりでござるか!」
「何か最近、やけに吉村に突っかかってくるよな! 吉村がお前に何かしたのかよ!」
「……別に、何でもないわよ」
鈴はそう言って、その場を立ち去った。
「ん? なんか態度が違うでござるな。天音氏」
「何かあったのか?」
佐藤と藤木は呆気に取られていた。
「ははーん……拙者、わかったでござるよ」
「……何がだ?」
「あのギャルの者、我等オタクグループの紅一点である、吉村氏に恋心を抱いてしまったのでござるよ!」
「マ、マジか? そ、そんなラブコメアニメみたいな! ギャルゲーみたいな展開が現実にあるのかよ!」
「今まで吉村氏に突っかかってきたのは、実は吉村氏に惚れていて、自分に気を向けて欲しかったからござるよ!」
「あ、あるよな! あれだろ! いじめっ子が好きな女の子をつい虐めてしまうとかいう心理! 存在が認識されていないよりは嫌われてでも気にして欲しい、って心理! あるあるすぎる!」
「そうでござるよ。そうやって無意識に突っかかってきてるうちに『あ、あれ? なんだろこの気持ち……もしかして、これって恋? や、やだ! わ、私、もしかしてあいつの事……本当は』みたいに! 恋心に気づいてしまったのでござる!」
「なんだよ! それ! つまりは吉村にモテ期到来って事か!」
「そう! そして、恋心に気づいた天音氏は態度が柔らかくなったのでござる! 自分の本当の気持ちに気づいた天音氏はかつてのように吉村氏に当たってこれなくなった! どうでござる! 拙者の名推理!」
「よっ! 名探偵佐藤!」
二人は盛り上がっていた。
「どうでござるか? 吉村氏、拙者の名推理は」
「残念ながら違うよ」
「え? 違うんでござるか」
「悪い……今日は帰りにとら〇のあな寄って帰るのはなしだ。俺はまっすぐ家に帰るわ」
「そうでござるか。だったら今日は二人で寄っていくでござる」
こうして俺は今日の放課後、家に直帰するのであった。
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