オタク嫌いのギャルが俺の義妹に!?

座席についた相手方の義父(予定)と義妹(予定)。


その二人が自己紹介をする。


「私の名は天音慧(あまねけい)と申します」


 そう、義父は言う。


「仕事は会社の経営をしています。事業的には俗にいうIT関連の会社になります」


 はあ……やっぱり金持ちそうな感じはしてたからなー。そうだとするとあのギャル……はエンコーとかパパ活してそう、と思ったけど。してなかったのかもな。そういう風に見えるってだけで。ああいう事する奴って大抵金がないやつだから悪い事言っちゃったかもな。

 あのギャルって……勿論、目の前にいるんだけど。


「ほら……鈴。挨拶しなさい」


「くっ……天音鈴です。よろしくお願いします」


 鈴は表情を歪ませ、挨拶をしてきた。鈴は俺とは異なり、事情を聞かされてきただろうから、驚きはないであろう。驚きはなさそうではあるが、知っていただけ心底不機嫌そうだった。


 恐らく父親の決定には逆らえないのであろう。何となく、ブラコンっぽい空気を感じる。俺の義妹になる事は死ぬほど嫌かもしれないが、それでも父親の幸福は祝福したい、そういうダブルバインドというような、矛盾した感情を抱いているのだ。


「鈴は浩介君と同じ高校に通っていて、同級生らしい。だから詳しい説明はいらないとは思う」


「え……ええ。まあ、よく知っております。この度は母と再婚して頂けるという事で息子としても大変嬉しく思っております。最近の母さんは幸せそうでしたから」


「……そうか。それは良かった」


 俺は母については特別紹介する事もないだろう。俺はただの変哲もない高校生だし。しいて言うならかなりのオタクではあるが、オタク趣味なんてわざわざアピールするほどの事ではない事は俺が痛いほど知っている。義父には知られなくていい事だ。


だが、一緒に生活していくとなると、義父は俺の素性を知ることになるとは思うが。


「それで、あれですか? やっぱり再婚するって事になると苗字は変わるんですか?」


「いや……君のお母さんの仕事もあるだろうし。今は夫婦別姓という制度があるんだ。どちらの性を名乗ってもいい取り決めなんだよ。君も今までの苗字を名乗るといい」


 義父は答える。


「……そうですか。でしたら、住居はどうなるんですか?」


「そこら辺はもう決まっているよ。私の方の家に住む事に。君たちが今住んでいる一軒家は引き払う事になっているんだ。君たちの方に引っ越してもらう」


 俺達が父の補償金で買った家は決して悪い物件ではなかった。普通の一軒家だった。だからその住居を引き払ってまで移り住むとなると、その家は相当豪勢な家という事になる。俺の部屋にできるくらいの空き部屋がある事だろう。


「……他に何か問題はないかね?」


「な、ないです。そ、その……ありがとうございます。母さんを幸せにしてくれて」


 俺は頭を下げる。


「何を言っているんだ。私の方こそ、彼女に幸せにして貰っているんだよ。礼を言いたいのは私の方だ」


「……そうですか。だったらいいんですが」


 何でもいいだ。俺は。あんな落ち込んでいる顔の母を見ないで済むんだったら。交通事故で父親が死んだ時の抜け殻みたいな顔。その顔を見ないで済むんなら。今、隣にいる母の顔は凄く満ち溢れた顔をしている。

 だから俺はこの結婚は大賛成だ。


 問題なのは一つだけである。目の前にいる義妹(予定)がオタクである俺の天敵――つまりはギャルだって事だ。


「ご結婚はいつされる予定ですか?」


 日本でいう結婚制度というのは役所に書類を提出する事で決まる。


「今度の祝日を予定している」


「結婚式とかはされるんですか?」


「さあ……彼女が望むならするかもしれないが。お互いに年齢が年齢でいい年だし。お互いに一回はやっているんだよ。やらない可能性の方が高いと思っていい」


「……そうですか」


「それじゃあ、質問がなかったら会食をするとしようか。目の前のおいしそうな料理も冷めてしまうとおいしくなくなってしまうし」


「あ、はい。そうですね」


 こうして俺達は会食を始めた。


 その後、母と義父は書類を役所に提出し、晴れて夫婦となった。


 そしてそれと同時に、俺(オタク)の事が嫌いな天敵――ギャルである天音鈴が義妹になったのである。

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