母親が再婚する事になった
「ただいまー……」
「あら……おかえりなさい」
母親が俺にそう言ってきた。母は台所で洗い物をしている。俺達は一軒家に住んでいた。死んだ父が残してくれた遺産だ。父親は30代という働き盛りの若い時に既に亡くなっている。交通事故で、不慮の事故で亡くなった。
だが、その時の多額の保障金を貰ったため、俺達は何不自由のない生活ができている。一戸建ても購入できるようになった。そして俺は中学を卒業して私立高校の高校生にもなれた。母親は正社員として保険の営業をしているが、それだけではここまでの生活はできていないだろう。
なんだかんだで死んだとはいえ、お父さんの存在というのは俺達にとっては大きかったのである。
「そういえば……浩介」
母、真理恵が言ってくる。洗い物をしながら。食洗器くらい買えばいいのにと思うが。
「何? 母さん」
「母さん……再婚する事になったの」
「え? な、なに!? それ……唐突過ぎない!?」
俺は驚いた。
「一か月前くらいに、居酒屋で知り合って意気投合しちゃって、同じくらいの年齢の人で、それで彼も今バツ1で独身だったみたいだから。それからよく会うようになって、それで」
ああ。どうりで家にいない時間が多いと思っていた。仕事の残業とかが多いのかとも思ってたけど、土日とかにもよく出かけてたもんな。確かにおかしいよな。基本的に土日出勤がない会社で、土日出かけるってのは。
つまり仕事の事じゃなくて、プライベートな都合で出かけているに決まっている。
母親の顔が赤くなっていた。少し、母の顔が若くなって、生き生きしたような気がする。やはり女は何歳になっても女なんだろう。恋をしていたい生き物なのかもしれない。多分。母親だって当然女だから、そういう気持ちにもなるんだろう。
「へー……いいじゃん」
俺は純粋にそう思った。父さんが亡くなった時の母、真理恵は消沈していた。ショックのあまり何も食べられないような毎日。感情のない毎日を送ってきた。感情を取り戻した時は父が亡くなった後、ひたすら泣き続ける毎日であった。
そんな母の姿を見ていると、同じように俺の気持ちも落ち込んでくるものだった。その気持ちを落ち着けるために、俺はオタク趣味にのめりこんだようなものだった。
そんな状態の母親に比べたら、そりゃまあ、今の活き活きとした顔の方がよっぽどいい。
「あんたはどう思う?」
「どう思うって?」
「私が再婚するって事よ」
「だからいいじゃん、って言ってるじゃん。母さんが幸せな方が俺だってそりゃ幸せだよ」
「ありがとう……でも、お相手さん、お子さんがいるのよ」
「お子さん?」
「……ええ。あなたと同じ年の、女の子みたいなの」
「……つまりなんだ? 同じ年って事は義理の姉なのか、義理の妹なのかわからないけど。俺に義理の兄妹(きょうだい)ができるって事なのか?」
「まあ、そうなるわね。ちなみに誕生日はあんたの方が早いみたいだから、同じ年だけど一応妹、って事になると思うけど」
エロゲみたいなイベントだな。俺は想像する。きっとあれだろうな。清楚系でかいがいしくて、俺の事を「お兄ちゃん!」って呼んでくれる、そんな犬みたいな義妹ができるんだろうな。俺はそれを妄想し、ニタニタと笑みを浮かべる。
「母さん! 是非再婚してください! どうか! よろしくお願いします!」
俺は実の母に土下座する。
「な、なんで……あんたが土下座してくるのよ」
「義理の妹! これはお母さん! オタクにとってロマンなんです! 俺達はそのロマンを追い求めて、ただひたすらに今日までの時を生きながらえてきたんです! そんな夢のような現実が突然訪れようとしているんです! どうかお願いしますお母さん! 俺に妹をください!」
俺は涙を流しながら懇願する。
「こ、怖いわね……言われなくてもあんたが反対する気がないなら再婚するつもりだったわよ」
「するわけないじゃないですか! 義理の妹を手に入れるなんて夢にまで見たシチュエーション! どこのオタクが反対するんですか! そんなオタクいるわけないじゃないですか! そんな奴いるなら死んだ方がマシです!」
「それで、今後、その人と娘さんを連れて、顔合わせをする事になっているの。そこそこ高い料亭で。いいかしら?」
「いいですともお母様! 是非俺に義妹に会わせてください!」
こうして俺達は再婚相手となる。俺にとっては義理の父及び妹と顔を合わせることになったのである。
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